和歌山県ナースセンターは、2015年4月に和歌山市から海南市へ移転した和歌山県看護協会の一角にあります。広い駐車場や研修のための広い部屋が整備され、美しく使いやすく生まれ変わりました。人口の高齢化が進む和歌山県で看護職の再就職を支援する取り組みについて、和歌山県看護協会会長の古川紀子さん、常任理事の山本喜久子さん、ナースセンター担当の中川京子さんにお話を伺いました。

比較的高い年齢の方も積極的にナースセンターを活用しているそうですね。

「これからの看護職は自ら変化が起こせるような、自立した精神を持つ存在であってほしい」とエールを送る和歌山県看護協会会長の古川紀子さん

古川 とどけるん届出制度、eナースセンターともに40~60歳代の登録者が多いというのが和歌山県の特徴です。実際の相談数を見ても、昨年度は1310件のうち26%を50歳代の方が占めており、世代別で最多となっています。この世代の看護職から多く寄せられるのが、「定年までどのように働いていけばいい?」「定年後にはどんな道があるの?」といった、将来を見据えたキャリア相談です。まだまだ現役として活躍できるものの、体力的な厳しさを感じたり、責任の重さに悩んだりする世代でもあります。
 このような悩みに対して、仕事についてはもちろん、家庭の事情なども踏まえながら、実践的なアドバイスをしています。

中川 相談者一人ひとりに合った道を探るためには、県内の医療・介護施設に関して、表面的なものにとどまらない情報を仕入れておくことが欠かせません。実際に施設の担当者とコンタクトを取り、どんな年齢層の看護職がどのように活躍しているのか、どんな医療行為を行っているのかといった点を聞き取った上で求職者の相談に応じています。求人が出ていない施設であったとしても、担当者と直接お話ししてみることで「よかったら見学に来てください」と話が進むこともあります。
 また県内82病院を対象として、看護職員の就業・離職調査も行っています。私たちが知りたいのは、新人や中途採用の看護職がどのくらい継続して働いているのかということです。2016年度の調査では、新卒の離職率が平均5.5%、中途採用の離職率が平均11.8%で、全国平均より低めであることが分かっています。
 どちらの離職率も低下傾向にありますが、その背景には2011年から取り組んでいるワーク・ライフ・バランス推進事業の効果が出ていると思います。これまでに、有給休暇の取得率を40%から70%まで高めたり、連続休暇を取りやすくしたりといった働きかけを行ってきました。労働環境を改善して長く働ける職場にしようという意識が、県内の病院全体に広がりを見せているのです。

古川 多様な働き方を受け入れようとするとき、勤務体系や給料体系が複雑化するなどのデメリットを懸念する求人施設があるかもしれません。しかし、一度そのハードルを乗り越えれば、より多くの優秀な人材が集まりやすい職場になるはずです。

潜在看護職向けの研修についても、いろいろと工夫を凝らしているそうですね。

常任理事の山本喜久子さんは「自分の人生や働き方を積極的に切り拓こうとする姿勢を持った方が再就職にも成功します」と言う

山本 潜在看護職を対象とした「復職支援研修」は、紀北(和歌山県看護研修センター)と紀南(情報交流センタービッグU:田辺市)で年1回ずつ行っています。研修内容は基本的に同じプログラムなので、日程や立地などで参加しやすい会場で受講していただけます。
 この研修は、基本的に6日間のプログラムで構成されています。最初の2日間で感染管理、医療安全、技術演習(採血、静脈注射、導尿、経管栄養)などを学んでから、希望の病院(35施設)か訪問看護ステーション(25施設)での3日間の施設実習を行います。そして最終日の交流会で、参加者同士で研修の振り返りを行います。今年の参加者を見ると、最大で24年のブランクがある方もいれば、就業中だけれど新しい技術を習得したいという方まで、様々な方がいらっしゃいました。
 研修の最終日には、交流会のほかに災害看護を学ぶ時間も設けています。DMAT(災害派遣医療チーム)隊員である看護師を講師に招き、自身の体験談のみならず、災害看護の実際について具体的な講義をしてもらっています。例えば、トリアージの方法や避難所におけるケアのポイントなどです。和歌山県は南海トラフ地震により被害が出ることが予想されているため、災害看護には力を入れているのです。

 施設実習に臨む際は、当センターオリジナルの「実習目標・看護技術自己評価」という自己評価表に記入のうえ持参してもらっています。「体位変換」「口腔ケア」「吸入」などの技術項目別に4段階で自己評価してもらい、実習の前後でどのくらい成長したかが分かるようになっているものです。この自己評価表は実習を受け入れてくださる施設側にとっても意味があり、受講者の技術レベルを具体的に伝えることで、より的確な指導に結び付けられるようになっています。
 復職支援研修は基本的に6日間のプログラムですが、受講者の希望によって柔軟に対応が可能です。講義だけ、実習だけといったかたちでの参加もOKですし、中には8カ月のお子さんがいて、昼休みの時間は授乳のために一時帰宅していた方もいます。すぐに就職を考えているという方に限らず、育児期間の方も、空いた時間に気軽に参加してもらえるとうれしいですね。

中川 もっと短い時間で学びたいという方には「採血技術演習」もお勧めです。第1・3木曜日の午前中に和歌山県看護研修センターで行われ、学習用DVDを見てからシミュレーターを用いて真空採血管、翼状針、留置針を使った演習に取り組む内容です。当初は不安そうだった方も、演習後にはすっかり自信を取り戻して帰っていくのが印象的です。

高齢化が進む和歌山県では、地域医療に目を向ける看護職も多いそうですね。

ナースセンター担当の中川京子さんは「病院だけが選択肢ではないことを幅広い世代の看護職に知って欲しい」と話す

中川 定年退職された方を含めて離職中の看護職を対象にする「再就業促進研修(ナースの輝く人生応援交流会)」には、看護職が地域で活躍するためのヒントが盛りだくさんです。病院、訪問看護ステーション、介護老人保健施設、看護小規模多機能施設など約10施設に参加いただき、どのように看護職が働いているかを聞くことができます。こうした施設での働き方は具体的にイメージできないという看護職がまだまだ多いと思います。就業先の選択肢を広げる意味で、幅広い世代の看護職に知ってほしいですね。

古川 和歌山県は高齢化率が30.9%と比較的高く、近畿府県内では第1位、全国で第7位になります(2017年1月の調査より)。在宅療養する高齢者は今後も増加していくため、地域で活躍する看護職のニーズは今以上に高まっていくでしょう。実際、在宅医療に目を向ける方は徐々に多くなってきており、例えば県内の訪問看護ステーションで働く看護職は2016年までの2年間で80人も増えました。
 在宅医療や高齢者施設で働く看護職には「全体」を見渡すことが求められます。つまり、患者さんの身体だけでなく、その心を見て、ご家族とも接して、地域全体を俯瞰するという広い視野を持ち、リーダーシップを取れる看護職が必要なのです。そうした看護職がこれからもどんどん増えていくよう、当センターとしても力を尽くします。

和歌山県の看護職の皆さんに、メッセージをお願いします。

山本 様々な世代の看護職と接する中で感じるのは、やはり自分の人生や働き方を積極的に切り拓こうとする姿勢を持った方が再就職にも成功するということです。出産や育児のためにいったん退職すると、10年近くのブランクになってしまうことが多いのです。今後は、両立は無理だろうと決め付けてあきらめる前に、「子どもが小さいので今は短時間勤務が希望ですが、いずれは正規職員として活躍したいです!」などと看護職自ら働き方をどんどん提案していけるようになるのが理想的ですね。当センターとしても、相談に訪れた看護職の皆さんに、そうした意識を持っていただけるよう働きかけをすることが重要だと考えています。

古川 これからの看護職は、いつか誰かが環境を良くしてくれるだろうと待っているのではなく、自ら変化が起こせるような、自立した精神を持つ存在であってほしい。私たちもその後押しができるように、常に準備していきたいと思っています。

和歌山県ナースセンター

〒642-0017 和歌山県海南市南赤坂17番地
TEL:073-483-0234
http://www.wakayama-kangokyokai.or.jp/new_site/nurse-center.html

●センターの主な事業内容
1.ナースバンク事業
(1)看護職員無料職業紹介事業
・「eナースセンター」による求人求職登録、職業紹介
・ナースセンター(海南市)での就業相談:月~金、10:00~16:00
・ハローワークとの連携事業(「ナースのお仕事相談」の開催):ハローワーク和歌山(第2・4金曜日、13:30~15:30)、ハローワーク田辺(第2・4火曜日、13:30~15:30)
(2)再就業促進研修
・潜在看護職復職支援研修:紀北と紀南で開催
・再就業促進研修(ナースの輝く人生応援交流会):年1回11月ごろ開催
・採血技術演習:第1・3木曜日に和歌山県看護協会で開催
2.離職時等の届出制度(「とどけるん」)に関する事業(登録者への支援)
3.「看護の心」普及事業
・「ナースディフェスタ和歌山」の開催(5月12日の看護の日を中心として)
・進路相談会、1日看護体験(「ふれあい看護体験」)の実施
4.まちの保健室事業
「まちの保健室」の開催:スーパーマーケット4回、高校文化祭、短大学園祭、刑務所矯正展(イベント参加2回)
5.ナースセンターだよりの作成と配布(年4回)
6.その他(病院対象の看護職員の就業・就職調査、1日看護体験参加者の進路調査 等)

●センターで今一番注力している事業
・「eナースセンター」の登録周知:求職者・求人施設に登録を促し、マッチング率の向上に努めている。
・相談業務の充実:復職支援コーディネーター(看護管理経験者)によるハローワークでの「ナースのお仕事相談」

●今後行いたい取り組み
・ナースセンターの周知活動
・「とどけるん」「eナースセンター」登録者に対する支援の充実
・求人登録のある施設への訪問

●離職者へのメッセージ
 離職された方は、届出の際に「eナースセンター」の登録もお願いします。看護職の求人ニュースや研修のご案内をメールで発信しています。また、離職中の方には、ナースセンターがお話を伺い、希望に沿った仕事探しを支援しています。離職期間が短くても長くても、電話・メールや、ナースセンターへ直接来所してお気軽にご相談ください。

●その他のアピールポイント
 2015年4月、和歌山県看護協会は和歌山市から海南市に移転しました。敷地内には100台収容の駐車スペース、大ホールを擁する看護研修センターがあり、和歌山県看護協会の建物には役員室、研修室、会議室、図書室、技術演習室、事務室、ナースセンターなどがあります。技術演習室での採血技術演習は盛況です。相談業務では、看護学生の方、新卒の方、ブランクのある方、仕事を探している方、在職中の方、看護職を募集している施設の担当者といった方々に対応しています。
 2017年の調査において、和歌山県の高齢化率は近畿府県内では第1位、全国では第7位でした。そのため、病院だけでなく介護施設や訪問看護ステーションの求人登録も多くあります。相談に見える方のライフスタイルに合った働き方・働く場所を一緒に探していけたらと思っています。

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