茨城県ナースセンターは、復職・セカンドキャリア研修を始めハローワークへの移動相談など、仕事に復帰したい方のために、県内の看護師であれば誰でも参加できる幅広いサービスを提供しています。茨城県看護協会常任理事の白川洋子さん、センター長の森田正子さん、センター主任の菊池健太郎さんに、運営に当たっての考え方と今後の予定を話していただきました。
どんな方が相談に来られますか?
白川
子育てをきっかけに辞めた方が復職するまでには、相当の時間がかかることがあります。今の医療現場の変化は早いので、いざ戻ろうとしても技術面でついていけなくなります。3年も経つと復帰するのがおっくうになるのではないでしょうか。
また、入職して半年とか
1年目で辞めたような、職場になじめなかった方など様々です。なじめない理由はいろいろありますが、プリセプター制度がない施設や昔ながらの見て覚えろ式の教育を続けている施設もあります。大規模病院は教育制度が整っていますが、県内の教育格差、医療の地域格差もあります。
「やりがい」作りを手伝いたい

白川 こういった方々に、ここに相談に来られることで、看護職を志した時のことを思い出して欲しいのです。相談員たちは皆、「看護はすばらしい職業であり、こうやって他人の役に立てることは幸せだ。私たちがしてきた体験を、相談者の方々にもしてほしい」という思いで関わっています。一人ひとりに時間をかけるので費用対効果は悪いと思いますが、数ではなくて質にこだわっています。長い時間をかけてでも、就職にまで持って行くことを心がけています。ここには看護が大好きな人がいます。
菊池 就職斡旋だけならハローワークでもいいと思いますが、センターはそこで決められなかったような方も受け入れます。看護職のセーフティネットの役割を担えればと思っています。
森田 実際には注射手技などに自信が持てず復職をためらう方が多いことから、「カムバック支援セミナー」で技術面の指導にも力を入れています。また、55歳以上の方を対象とした「セカンドキャリア支援セミナー」もあります。ライフスタイルに合わせた仕事の継続の仕方について講習を行っています。
白川 今は「地域で最後まで働きましょう」という時代です。地域包括ケアの流れの中で「私にもまたできるかもしれない」と定年退職された方たちが復職を希望するケースが増えつつあります。実際、「訪問看護支援事業」には70歳近い方が研修を受けにきています。臨床経験は1、2年ほどで、長年人を育てる仕事をされていた方です。実習に行ってみたら想像していたより大変だったようで、療養型病院や介護施設などで実習を重ねていくことを勧めています。

菊池 ナースセンターの事業ではありませんが、看護協会で「ナースボランティア」の募集も行っています。看護協会で「在宅支援事業」を行っていますが、地域のコミュニティーセンターなどで健康相談会を行う際にボランティアさんに来ていただき、地域の方々の話を聞いてもらったりしています。再就職の一歩手前で気軽に地域住民の方と関わり、自分が必要とされているということを感じていただけたらと思っています。参加者は「看護の原点に戻れる」と、やりがいを感じているようです。
管理者を対象にした研修もあると伺いました。
菊池 「管理者研修」は看護部長クラスが対象ですが、今後は師長・主任クラスを対象にバーンアウト予防に関する研修を実施していかなくてはならないと思っています。中間管理職は板挟みになって苦しいことが多いので、貴重な人材が辞めないですむように支援していく必要があります。復職希望者対象の「カムバック支援セミナー」の参加者には仲間意識が生まれますが、同じように、師長・主任の方々にも横のつながりを作る場を提供したいと思います。
白川
看護師は専門職であるはずなのに、実際は“何でも屋”になってしまうことが多いのです。専門職として看護の仕事に専念できるように、管理者の力量を上げなければ職場の環境は良くなりません。いま中間管理職である師長たちがものすごく疲弊しています。昔と違って診療機能は相当高くしないといけない。ますます忙しい環境になっています。メンタルケアや労務環境のことをしっかりやっている病院でないと、辞めるスタッフが増える一方です。
またワークライフバランスとよく言われますが、看護職は結婚していたり、恋人がいたりして、相手の理解があるかどうかも大きな問題です。働く女性の17人に1人が看護職といわれます。多くの企業にパートナーが看護職という職員がいるはずです。そういった職場への協力要請も大切です。
今後はどのような点に力を入れていこうと考えていますか。

森田 2015年10月1日施行の届出制度をいかに充実させていくかが課題です。
菊池 届出制度の支援策として生活情報の提供もあるといいですね。市町村に公営住宅や地域物産品の提供をお願いし、地方移住を考えている看護職にアピールするなど。近隣は東京、千葉、埼玉と給料が高い地域が多いので、茨城は自然環境に恵まれていることや食べ物、住みやすさ、人間の温かさなどの魅力を発信していく必要があると思っています。2015年8月には鹿島アントラーズのスタジアム内にクリニックが開業しました。神栖市は工業地帯で経済が安定しており、子育て支援も充実していて住みやすい環境です。そのような地域の情報をどんどん発信していきたいと思っています。
森田 鹿嶋市や神栖市などのある鹿行地区は東京、千葉に近く、温暖で住みやすく、子育て支援も充実していますので、バスツアーを企画し鹿行地区の素晴らしいところを見てもらってはどうかと考えています。
あなたのペースに合わせます

森田 「センターは協会員でないと使えないのですか」という質問が多数寄せられます。看護職であれば利用できることを周知していきたいと考えています。そのためにも、まずセンターの認知度の低さを改善したいと思います。今年度からウェブサイトを立ち上げ、様々な取り組みを紹介しています。
菊池 認知度が低ければ信頼度も低くなります。届出制度では個人情報を預かりますが、信頼がないとなかなか預けてもらえないと思います。

就職相談はしばしば就職者の数ばかりが問題視されます。しかし数が重要であれば、ハローワークで間に合うと思います。求職者は様々な悩みを抱えており、長い時間をかけて相談に応じなければならないケースがしばしばあります。求職者が焦らず自分のペースで就職できるようにサポートすることがセンターの重要な役割だと考えています。相談員の前職は、看護部長、看護学校関係者、保健師とバラエティに富んでいます。そのため様々な相談に対応できています。
特に育休の間に看護技術を忘れないようにするためのサポートは重要だと思います。ちょっとでもつながっておく、という気持ちでいらして欲しいと思います。
白川
届出制度のポスターのキャッチコピー、「看護の現場を離れても、『看護師のわたし』を忘れない」を見て感動しました。最初に看護師になりたいと思ったときの気持ちを忘れないでほしいというメッセージです。
新人の頃のミスが離職後も心の棘のようになって忘れられない人がいると思います。でも、人はずっとできないままではありません。継続することが自分を育ててゆくことになるのです。

茨城県ナースセンター
〒310-0034
茨城県水戸市緑町3-5-35 茨城県保健衛生会館1F
TEL 029-221-7021
http://www.ibaraki-nc.net/
●センターの主な業務内容
・無料職業紹介事業
・再就業支援事業(カムバック支援セミナー・セカンドキャリア支援セミナー)
・看護管理者研修
・看護職員定着促進コーディネーター派遣事業
・看護師等届出制度普及事業
・看護の出前事業
・看護職員就業相談員派遣面接事業(ハローワークにおける「看護の仕事」相談会)
●センターで今一番注力している事業
・看護師等届出制度普及事業(ナースセンターのPR強化)
・看護職員就業相談員派遣面接事業(ハローワークにおける「看護の仕事」相談会)
●今後行いたい取り組み
・ナースセンターマスコットキャラクター「はぴなちゃん」の着ぐるみを制作し、さまざまなイベントに出向きナースセンターの知名度を上げていきたい
・届出制度登録者への支援策を検討し、計画・実施する予定
●離職者へのメッセージ
・あなたを必要としている人はたくさんいることを忘れないで!
・ナースセンターは「過去・現在・未来」看護に関わるあなたを全力でサポートいたします!
