滋賀県ナースセンターでは、きめ細やかな相談事業や県内57病院への訪問など、求職者や求人施設との距離を近づける様々な取り組みを行っています。滋賀県看護協会会長の廣原惠子さん、協会常務理事でナースセンター長の松波典代さん、就業コーディネーターの古川純子さん、相談員の木村昭子さんにお話をうかがいました。

若い世代もナースセンターをよく知っているそうですね。

滋賀県看護協会会長の廣原惠子さんは「意外かもしれませんが、病院以外の場で活躍する看護職も多いのです」と言う

廣原 ナースセンターが1階に入る滋賀県看護研修センターは、県内の看護職の新人研修会場にもなっています。滋賀県で新たに働き始める新人看護職は毎年650人ほどですが、そのほとんどがここで研修を受けているのです。またナースセンターは、入職3年目の看護職が対象のリフレッシュ研修を企画から担当しています。毎年300~400人が受講しますが、プリセプターとして後輩の指導を担当することが多い入職3年目は、職場内での役割の変化に戸惑うなどして転職を考えやすいタイミングでもあります。これまでの自身の経験を振り返りながら仲間と語り合うことで、看護への熱い思いを再認識してもらう機会となっています。

古川 こうした研修を受講する看護職には、届出制度やナースセンターの説明もしっかりとさせていただいています。「仕事に悩んだら退職を考える前にナースセンターを活用してね」「働く場所を探すだけでなくメンタルヘルスの相談にも乗りますよ」といったメッセージを直接伝えているので、若い世代の看護職にもナースセンターのことをよく知ってもらえているのだと思います。

松波 ナースセンターには学生さんから70歳代まで幅広い世代の登録がありますが、その8割を占めるのが20~40歳代です。結婚や育児をきっかけに退職し、「ブランクがあっても復職できるかな」「子育てと両立させるにはどうしたらいいの」といった悩みを抱えて当センターを訪れる方がとても多いですね。お子さんを3人育て20年以上ブランクがあった方が「末っ子が中学生になって自分の時間が持てるようになったから働きたいです」と相談に見えたこともありましたが、ナースセンターを活用してしっかりと再就職し、現場で活躍されています。

「プライバシーに配慮しながら丁寧にお話をうかがいます」と木村昭子さんは話す

木村 再就職に関する相談以外にも、「こころの相談窓口」を設けて相談者のメンタルヘルスのサポートに力を入れています。「仕事で失敗してしまい自信がなくなった」「人間関係に疲れてしまった」といった悩みに、リエゾンナースや精神看護専門看護師などのキャリアを持つ相談員が寄り添っています。

潜在看護職のためには、どのような研修が用意されていますか。

廣原 離職期間が長い方が安心して再就職するためには、事前に研修で十分に学んでおくことが支えになります。ブランクのある看護職にとって最も不安なのは、「自分の知識や技術が不十分なのではないか」ということでしょう。当センターでは、再就業支援研修を「リスタートサポート研修」と名付け、再出発を目指す皆さんを応援しています。この研修の参加者のうち6割から7割ほどの方は再就職しています。

松波 リスタートサポート研修は「医療コース」と「訪問介護・介護福祉コース」の2つに大きく分かれています。
 医療コース(年1回開講)は、感染管理や医療安全といった現場で必須となる内容を3日間の講義で学び、2日間の実習を協力病院で行います。前回の研修では「家にいると専門書なんてなかなか読まないから、最新の看護について学べてとても新鮮」といった声が多く寄せられました。
 研修に協力してくださる病院は、看護学生の実習も受け入れるような基幹病院が多く、県内各地に7施設あります。そのほかに受講者の気になる病院がある場合は、ナースセンターが実習の受け入れをその施設にお願いしています。積極的に受け入れを考えてくださることがほとんどなので、どの地域に暮らす方でも参加しやすいのではないでしょうか。また、受講者が託児施設を利用する場合には利用料の補助を受けることができます。

古川純子さんは「訪問することで、施設がどんな看護職を求めているのかがよく分かります」と話す

古川 一方の訪問看護・介護福祉コース(年3回開講)は、6日間の講義で学んだ後、希望する訪問看護ステーション・介護施設で3日間の実習を行います。介護施設や地域医療における看護の役割といった全体像から実践的な内容まで、感染管理や認知症看護、摂食・嚥下障害、緩和ケア、皮膚・排泄ケアなどの認定看護師を中心とする講師陣が丁寧に教えてくれます。また、薬剤師が講師となる「薬剤の知識」は、複数の薬剤を投与されている高齢の患者さんが多い今、とても重要なトピックスの一つです。薬のとかし方、飲ませ方、インスリン注射の仕方、輸液バッグの扱い方など、すぐに現場で活用できる知識ばかりです。

施設訪問にも力を入れているそうですが、どのような手ごたえがありますか。

松波 就業コーディネーターの古川を中心に、県内57病院を毎年訪問しています。当センター経由で就職した方がいる場合は、その方の近況を教えてもらい、困ったことがないかなどの確認もしています。「頑張って働いていますよ」「よい人をありがとうございました」といった言葉をいただくことが多く、スタッフ一同大いに励みになっています。また、病院側の人材確保・育成における工夫や課題を聞かせてもらい今後の参考にしたり、適宜アドバイスなどを行うこともあります。

古川 訪問することで、どんな特徴のある病院なのか、そしてどんな看護職を求めているのかがよく分かりますから、的確なマッチングに生きてくるわけです。5年前から始めたこの取り組みの甲斐あってか、県内の病院の新人看護師の離職率は6.8%、看護職全体で9.8%と、全国的に見ても低い水準を保つことができています。

木村 情報収集という点では、ハローワークとは密に連携しています。例えば、雇用保険の給付手続きのためにハローワークを訪れた看護職にナースセンターを紹介してもらったり、求人情報を共有しながらスムーズに見学や面接をセッティングしています。
 また、彦根サテライトのほかに、8カ所の出張就業相談窓口(ハローワーク大津・草津・長浜・東近江、高島・甲賀健康福祉事務所、近江八幡・草津駅前マザーズジョブステーション)で、就職に関することだけでなく、看護にまつわる相談全般に応じています。プライバシーに配慮し丁寧にお話を伺うように心がけ、相談者のお近くの窓口を気軽に利用できるようにご案内しています。

病院以外への就職に関しては、どのような状況ですか。

廣原 滋賀県では1万6300人の看護職が働いていますが、そのうち病院に勤務しているのは約1万人。意外かもしれませんが、病院以外の場で活躍する看護職も多いのです。特に、訪問看護領域での従事者の伸びは目覚ましく、現在では非常勤も含めて700人を超える看護職が県内で訪問看護に従事しています。2015年に県の補助金を受けて滋賀県看護協会に設置された訪問看護支援センターでも、各ステーションにおける人材確保や教育、特に新人育成プログラムの作成・運用を積極的に支援してきました。
 一方で、介護福祉施設における看護職の不足は課題です。医療依存度の高い入居者が増加傾向にあり、介護福祉施設でも看護職を確保し、育成していく必要があります。当センターとしても各施設と情報を共有しながら、興味や適性のある求職者を的確にマッチングしていきたいと考えています。長期的に高齢の患者さんと関わるということに看護の面白さを見出す方は決して少なくないので、職業としてのやりがいや魅力をPRしていくことも重要だと考えています。

「何よりも求職者と直接お話しすることを大切にしていきたいと思っています」と話すナースセンター長の松波典代さん

松波 ウェブサイトを充実させて情報発信する努力も必要ですが、私たちは何よりも求職者と直接お話しすることを大切にしていきたいと思っています。ナースセンターには、看護師として長い臨床経験があり、管理者も務めてきたスタッフが集まっています。自分に合った現場で活躍することの楽しさや、患者さんに喜んでもらえるうれしさといった体験をたくさん持っているからこそ、求職者にもそうした気持ちを抱けるような再就職を果たしてもらうことが一番の願いです。これからも、皆さんのどんな悩みも受け止めながら、どこよりも身近で頼りになる存在であり続けたいと思っています。

リスタート研修の様子

滋賀県ナースセンター
〒525-0032 滋賀県草津市大路2丁目11番51号
TEL:077-564-9494

http://shiga-kango.jp/publics/index/162/

●センターの主な事業内容
1. ナースバンク事業
・無料職業紹介所・第5次NCCSシステム登録促進
・看護師等届出制度の普及促進
・看護職就職説明会・面接会、訪問看護就職説明会(滋賀県・ハローワークと共催)
・サテライト開設による就業促進
2. 「看護の心」普及事業
・ふれあい看護体験
・高校生1日看護体験
・看護学校協議会と連携した進学説明会
・届けます!看護の魅力配達事業
・「小中学生しごとチャレンジフェスタ」参加
・看護フェア(看護の日)イベントの開催
3. 看護職員確保定着促進事業
・精神サポート(こころの相談)
・ワーク・ライフ・バランス推進事業
・看護力再開発講習会(病院・診療所就業コース)
・在宅医療福祉専門研修(訪問看護・介護福祉コース)
・訪問看護師養成研修(eラーニングを利用した訪問看護研修)
・看護職員定着促進リフレッシュ研修(卒後3年目研修)
・コーディネーター配置事業(出張相談窓口開設8カ所、県内病院訪問57病院、就業登録者意識調査)
・看護職員需要調査(病院、訪問看護ステーション)
・ハローワークとの連携事業

●センターで今一番注力している事業
看護職員確保定着促進に関する事業
・地域包括ケア時代に向け、在宅医療福祉の就業者増を目指して、現場で活躍中の認定看護師等の専門家を講師とした充実した研修を年3回開催している。6日間の講義・演習後、3日間の施設実習、終了後交流会を実施している。
・就業コーディネーターと4人の支援員により県内8カ所において出張相談を実施し、居住地近くで就業相談が受けられるようにしている。
・ワーク・ライフ・バランス推進のためのワークショップ参加施設を対象に、訪問型アドバイス事業を行い、働き続けられる職場環境作りを支援している。

●今後行いたい取り組み
求人施設の登録増加
・定年退職後のプラチナナースの働く場が少なく就業支援が難しい現状があるため、県の協力の下、情報を入手し、就業の場の拡大を図りたい。
・県内57病院へ毎年訪問して情報を得ているが、他の求人施設等の情報を得る方法を検討し、求人登録の増加を図りたい。
・看護教育現場に出向き就業ガイダンスの機会を得て、就業前からキャリア支援を行う。

●離職者へのメッセージ
・届け出ていただいた方には、滋賀県ナースセンターよりナースセンターご利用案内や求人情報、各種研修会・イベントのお知らせ、通信などを送付しております。また、送付後にお電話で近況のご確認をさせていただいておりますので、再就業をお考えの方はぜひご相談の上、就業につなげていただきたいと思います。
・経験豊富な看護職が就業相談をお受けしております。各相談窓口においでいただくか、お電話でもご相談いただけますのでご利用ください。お待ちしております。

●その他のアピールポイント
 滋賀県ナースセンターは、JR琵琶湖線草津駅東口から徒歩10分の位置にあります。看護職の確保定着の「総合拠点」です。看護職が辞めずに働き続けられる職場作りを支援し、求職相談、求人相談、進学相談、看護職員や看護学生のこころの相談、就職フェア、再就業講習会などを行っています。滋賀県ナースセンターは、あなたのそばにあります。まずはご相談ください。

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