東京都看護協会会館のワンフロアを占める東京都ナースプラザは、「ナースバンク」「研修」「普及啓発」「看護職確保対策」の4つを柱に事業を展開しています。東京都ナースプラザ所長の大田敦子さんに、東京都におけるナースプラザの役割についてお話を伺うとともに、再就職希望者へのメッセージを頂きました。

2015年には研修の総日数263日、受講者数4365人と伺いました。具体的に、東京都ナースプラザの研修にはどのような特色があるのでしょうか。

東京都ナースプラザ所長の大田敦子さん

 私たちの研修事業は、特に200床以下の中小規模施設で看護職を確保・定着させ、看護の質を上げる点に注力しているのが特徴です。内容的には、中小規模施設に勤める方がすぐに現場で生かせるような、実践的なものが多いですね。その他にも、病院で学生の実習指導を的確に行うための「実習指導者研修」(40日間)や、「訪問看護師育成基本コース」(30日間)など、じっくりと学ぶ研修も人気です。
 訪問看護に関しては、まだまだ介護分野寄りの仕事というイメージも強いようですが、地域包括ケアの流れもあり、急性期看護に近いことが在宅でも展開されています。再就職を希望する方にも、「訪問看護への先入観を捨てて、まずはどんな様子なのか話を聞きに行ってみては?」とお勧めすることは少なくありません。

再就業に向け3つのステップ

 再就業希望者の研修という観点からは、私たちの提供する研修は大きく3つのステップに分けられます。
 まずは、最も気軽に受けられる「採血・静脈注射の無料体験」。ビデオ視聴とシミュレーターによる実技で、丁寧に指導しています。もともとはナースバンク立川で行っていたものですが、非常にニーズが高かったため、2016年9月からナースバンク東京でも実施するようになりました(採血のみ)。

再就業に向けた研修  摂食・嚥下の看護

 次の段階が、冒頭でお話ししたナースプラザ研修です。お勧めは「再就職へのステップ3日間研修」です。看護界の最新情勢、薬剤知識のアップデートといった内容を座学で学べるほか、採血や輸液などは実技指導もします。3日間とはいえ内容は充実していて、「再就職へ向けて前向きになれた」という声も多く寄せられています。

 そして最後のステップですが、いよいよ本気で再就業へ向けて動きたいと思ったら、ぜひ「復職支援研修」に参加していただきたいと思います。一定の基準を充たした34病院へ依頼し、1日・5日・7日のコースを開設しています。1日コースは、院内で実施する座学の勉強会。5日コースは、いわゆる病院実習や手技の演習を含みます。7日コースになると、実際に病棟に入って動いてみる、本格的な実習となります。受講した病院に再就職しなければならないという縛りはないので、ご自宅の近所の病院や、気になっている病院などで気軽に研修を受けてみてほしいですね。

潜在看護職を中心に、届出制度を活用する動きは高まっているのでしょうか。

 届出制度の認知度は徐々に高まってきているものの、まだまだと感じることも多いです。都内には約7万人もの潜在看護職がいると言われていますから、この地で「とどけるん」の存在をアピールしていくことは大きな意味があると考えています。だからこそ、皆さんが相談に来るのを待つだけでなく、私たちの方から都内の様々な場所へ出かけ、積極的に活動することを心がけています。

就職相談会

 その一例が、各地域で行っている「地域に密着した看護職の就職相談会」(平成27~28年度)です。その地域の医師会と連携しながら、産業会館や区の施設などをお借りして、地域密着型の就職相談会を開いています。保育士が常駐するキッズコーナーもあるので、お子さんのいる方も気軽に参加できると思います。もちろん、相談会でも届出制度の説明をしていますし、相談員による入力補助も含めて簡単に届け出てもらえるよう工夫もしています。

 広報活動も大事だと思っていて、2016年春には東京都ナースプラザのホームページをリニューアルしました。従来の事業紹介を主にした硬い感じではなく、利用する方が使いやすく見やすいものにしています。また、東京都ナースプラザでは情報誌『やっぱり看護が好き』を年に2回、約2万部発行し、ナースバンクに登録している方へお届けしています。とても読みごたえがあり、特に再就職希望者に役立つ内容だと自負しています。いずれの活動も、すぐに再就職に結び付く即効性のあるものではないかもしれませんが、粘り強く情報提供して地道な掘り起こしを続けることも、私たちの役割だと考えています。

再就職やキャリア支援を希望される皆さんに、メッセージをお願いします。

選択肢が多いだけに迷ってしまい、ミスマッチが起こりやすいという側面もあるのです。

 東京都は就職先の選択肢が豊富で、情報量も極めて多いという特徴があります。インターネットで情報を見て、施設側と直接やりとりして再就職を決める方も少なくありません。ですから、再就職が簡単と思われがちですが、選択肢が多いだけに迷ってしまい、ミスマッチが起こりやすいという側面もあるのです。単純に就職できればいいというわけではなく、自身に合った看護ができる職場で、長く勤められることが重要です。だからこそ、ナースプラザまで足を運んで相談することに価値があるのだと思います。
 ここにいる就業相談員は、看護職として長い現場経験のある人ばかりです。求人施設の側にも求職者の側にも偏らない中立の立場から、丁寧に相談を受けています。今までどんな経験をしてきたのか、どんな働き方がしたいのか、まずは一緒に「己を知る」ところから始めたいと思っています。
 また、「荷物を抱えすぎない」という観点も重要です。家事や育児はきちんとやりたい、お給料には妥協したくない、急性期の現場から離れたくない……というように、すべてを手に入れなければと頑張りすぎてしまう方が少なくありません。でも、看護職という専門性の高い職業であるからこそ、「置いてきた荷物」を後で取り戻すことも可能なんです。多すぎる「荷物」は勇気を出していったん手放すことが、長く働き続けるコツ。自分はどの「荷物」を置けばいいのか。どの順番で、どうすれば、それを取り戻せるのか……。そうしたことを具体的に相談できるのも、ナースプラザのいいところなんですよ。

 最後に、転職を考えている方に伝えたいのは、「辞める前の段階でも相談に来てほしい」ということ。ナースプラザを単なる職業斡旋所だと考えている方もいるようですが、それはほんの一面でしかありません。退職前に相談してもらうことで、抱えている問題が転職によって解決できるのか、それとも現在の職場で頑張るべきなのかを一緒に検討することができます。仕事に行き詰まったとき、家族や同僚へ相談するのと同じように、私たちのことも相談相手として思い浮かべてほしいですね。

東京都ナースプラザ

〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-2-19
       東京都看護協会会館2階
TEL 03-5309-2065
https://www.np-tokyo.jp/

●センターの主な事業内容
①ナースバンク事業(ナースバンク東京:看護職7人・事務3人、ナースバンク立川:看護職3人)
ふれあいナースバンク(再就職研修+就職相談会)、届出制度活用「看護職の就職相談会」、
ハローワークとの連携「ハートフルワークコーナー」6カ所・計7回/月、施設セミナー
②研修事業
再就業支援研修、実習指導者研修、訪問看護師育成基本コース、200床以下の中小規模施設を対象とした研修
③普及啓発事業
一日看護体験学習:高校3年生対象(5月)、中学生・高校生・社会人対象(7月~8月)
各事業の広報活動等:看護職の再就職を応援する情報誌『やっぱり看護が好き』
④東京都看護職員確保対策事業
地域確保支援事業:東京都看護職員地域就業支援病院による復職支援研修
巡回訪問事業:200床以下の中小規模施設の看護管理者を支援し、勤務環境改善や確保・定着の促進を図る

●センターで今一番注力している事業
①届出制度活用「看護職の就職相談会」(平成27年度~28年度の時限付事業)
各医師会と連携した地域密着型の就職相談会。届出制度の周知とともに、離職看護職・潜在看護職の掘り起こしを行い、再就職につなげる
②広報活動
ナースプラザの事業紹介や届出制度の周知、ホームページの充実、メールマガジンの活用
③来所者増への取り組み
採血や吸引などの体験を各ナースバンクで気軽に受けられるようサービスの向上を図る

●今後行いたい取り組み
①看護専門学校との連携:届出制度の周知、ナースプラザの活用
②看護管理者連絡会議や保健医療圏内のネットワーク活動への参画
③ハローワークや福祉人材センターとの連携強化

●離職者へのメッセージ
 これまで届出をしてくださった方のうち、6割強の方は就業中、就業予定、就業活動中のいずれかで、残念ですが約2割の方は就業していません。そして、1割の方は看護職以外(保助看法で規定された業務以外)で就業しています。
 東京都内には、看護職の働く場所がたくさんあります。ICT(情報通信技術)を活用すれば、たくさんの情報を集めることができます。そして、働き方を選ぶこともできます。退職の理由がそれぞれ違うように、復職する理由や条件もそれぞれ違うはずです。仕事探しは、自分を知って、相手(求人先)を知ることから始まります。東京都ナースプラザに足を運んでいただき、看護職の相談員とじっくりと話をして、双方を知ることから始めてみませんか。
 職員一同、看護される人も、ケアを提供する看護職も幸せな気持ちになれる、そんな就業をしていただきたいと心から願っています。

●その他のアピールポイント
①研修事業
200床以下の中小規模施設、訪問看護ステーション、およびナースバンク登録者の看護の質向上を図る(研修費はすべて無料)
平成27年度実績:52コース、総研修日数263日、総定員数3875人(応募数7830人、受講者数4365人)
②東京都看護職員地域就業支援病院による復職支援研修
東京都が選定した34病院において、1日・5日・7日間の復職支援研修を実施。平成27年度は250人が受講。受講1年後のアンケート調査では約70%が就業している

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