配偶者の転勤が重なったこともあり、クリニックなどでの外来経験がほとんどだった小野さん。 3人の子育てが一段落したのを機に、昔からあこがれていた病棟看護師として働く道を模索し始めました。現在ではフルタイムに近い日勤の病棟看護師として、後輩の指導まで任される立場になっています。

小野さんは、15年近くのブランクを乗り越えて、病棟勤務の夢をかなえたそうですね。それまでにどんな経緯があったのでしょうか?

 私は、東海地方の高校卒業後に医師会附属の准看護学校で准看護師の資格を取り、続けて専攻科(いわゆる進学コース)を卒業して看護師になりました。在学中も、午前中は系列の病院で働き、午後は学校に通うというかたちで、二足の草鞋を履いて6年間を過ごしました。ずっと全寮制だったこともあり、同じ志を持つ仲間と同じ環境で、看護一色の青春時代を過ごした感覚ですね。

 卒業後すぐに結婚し、夫の赴任先である地方のクリニックに就職しました。夫が転勤族だったため、いつ引っ越しになるか分からず、腰を据えて病棟勤務する道は考えられませんでした。実際、最初に就職したクリニックも1年未満で退職することに……。その後、夫の転勤先である山梨県のクリニックで、胃腸科外来を中心に少しずつ経験を積んでいくことになりました。ただ、「看護師になったからには、いつか病棟で働いてみたい」というあこがれは持ち続けていましたね。

 その後、初めての出産を経て東京に来ました。2人目、3人目も出産して、14年間ほど専業主婦として育児に専念する時期が続きました。でも、自分の中で「区切り」と考えていた40歳を迎えたとき、「今が最後のチャンスかもしれない」と思い、再就職に挑戦する決意をしました。ちょうど下の子が小学4年生になって手が離れ始め、夫の転勤もしばらくはないということで、状況が整ってきたこともありました。

実際に転職活動を始めてみていかがでしたか?

 正直、全然うまくいきませんでした。多くの病院やクリニックの求人に応募しましたが、どこも「即戦力にならない」という理由で落ちてしまいました。唯一、「未経験可」の介護施設に採用されたのですが、看護師の裁量範囲が非常に広く、それに伴う責任も重大で、ブランクの長い私には厳しいと感じて早々に退職を決めました。そのとき、指示通りに動くだけでなく、自分の知識を駆使して判断できる病棟看護師になるため、きちんと勉強し直したいという気持ちがとても高まったのを覚えています。

 あらためて転職活動を始めましたが、その頃はハローワークに通っていました。そんなある日、男性が就職相談をしている声が聞こえてきたんです。その人は、地方から上京して看護職としての働き口を探しているようでしたが、職員の方に「看護職なら東京都ナースプラザで相談した方がいいですよ」とアドバイスされていて、そのとき初めて「そうか、私もナースプラザへ行けばいいんだ!」と気付きました。

意外なことが転機になったのですね。

 相談に訪れて早々、この浩生会スズキ病院を紹介していただきました。その理由は、自宅から近いことに加えて、看護職のワークライフバランスに力を入れていること、そして東京都から委託されてナースプラザで実施している復職支援研修の内容が充実していることでした。「研修を受講しても、必ずしも就職しなくていい」という話でしたので、まずは研修だけでもと思い7日コースを選択しました。「学生時代の実習のように、先輩ナースから厳しく突っ込まれるのでは……」と心配していたのですが、和気藹々とした雰囲気でホッとしましたね。かつて学んだ知識や技術が現在の臨床で通用するのかしないのか、それを一つひとつ確認していくのが新鮮で興味深く、逆にブランクがあるからこそ学びやすい部分もあるのかなと感じました。

 研修後は少し自信も付いて、すぐに当院の採用試験を受験。「ブランクは長いけれど病棟で頑張りたい」という思いを面接で率直に伝え、無事に採用していただきました。下の子の習い事で送迎の必要があったので9:00~15:00という短めの勤務時間でしたが、いよいよ病棟看護師としてスタートを切ったわけです。とはいえ、最初の頃は病院に来るだけで目の前の景色がかすんで見えるほど緊張していました。おむつ交換や寝衣交換といった基礎的なこともままならず、先輩や同僚の看護師の皆さんから教わりながら、課題を一つひとつクリアしていきました。ようやく業務に慣れて落ち着いたと思った頃には、半年ほど経っていましたね。

ブランクを乗り越えるために大切なのはどんなことでしょうか?

 初めの半年間、とにかく意識していたのは、「できることは確実にやる」「不安なことは必ず質問する」という単純なことでした。でも、これが重要だと思います。若い頃に比べると覚えが悪く苦戦した部分もありますが、臆せずに何度でも質問して、自宅で復習するという繰り返しです。復職支援研修でお世話になった看護師の方が同じ病棟に勤務していたので、その点は心強かったですね。ちょっとしたことでも聞きやすかったし、現時点で自分は何ができるのか、できないのかを素直に伝えることができました。とても感謝しています。

 再就職して3年半ほどたった今では、勤務時間を9:00~16:30として、30分くらいの残業が生じても大丈夫という余裕を持って働いています。業務範囲も徐々に広がり、認知症の段階に応じたケアや、褥瘡のアセスメントなどもできるようになりました。後輩の指導を担当することもあり、常勤の看護師に近い役割を任せてもらえるようになりました。

 病棟看護師として働きながら「できること」が増えていく毎日は、想像以上に楽しいものでした。「看護職としてこんな働き方がしたい」という思いがある方は、無理だと思い込んであきらめる前に、まずはナースプラザに相談してみてください。謙虚に学ぶ気持ちさえあれば、きっと自分の思いを受け止めてくれる職場に巡り合えると思います。

多様性を受け入れることが管理者にもメリットに

看護主任 髙橋幸子さん

 小野さんの第一印象として私が感じたのは、「ガッツがある」ということ。ご主人の転勤に伴う転居や育児を挟みながらも少しずつ経験を重ね、「いつか病棟看護師として働きたい」という思いをあきらめない姿が印象的でした。ブランクが長く非常に緊張しているのも分かりましたが、それ以上に「何とか食い付いていこう」という意気込みを感じましたね。学ぶきっかけ作りをすれば、自力で成長していけるタイプなのだと思います。

 実際、ブランクを乗り越えて再就職するためには、積極的に学ぶ姿勢が欠かせません。当院の看護職は99%以上が再就職組です。新卒者とは違い、それまで培ってきた経験や知識、技量などが異なるメンバー全員が、一定のレベルに達するよう研修を進める必要があります。そのために必要なのは、「できること」「できないこと」を明確にして、「できないこと」を重点的に教えていく方法です。再就職した方は、自分に何ができて何ができないのか周囲にはっきりと伝えることが、ブランクを乗り越える最短の道だといえるでしょう。

 現在、当院には60人ほどの看護職が在籍しています。そのうち、フルタイムが7割、扶養範囲内のパートタイムが2割、小野さんのようにフルタイムに近い条件付きの日勤常勤が1割くらいです。シフトを組むときは、勤務時間だけでなく経験や力量も考慮しながら、パズルのように頭を悩ませています。患者さんにベストのケアを提供できるよう、その日の条件の下で最適な組み合わせを見つけるイメージですね。簡単ではありませんが、多様な働き方を受け入れてこそ、多くのスタッフに長く働き続けてもらうことができます。最終的にはお互いにメリットが大きくなるということを、マネジメントする側も理解すべきではないでしょうか。

今と昔では労働環境がまったく違います

看護部長 黒崎八重子さん

 5年前の当院は、人手不足が深刻な状態でした。まずは夜勤明けのバトンを受けて朝の時間帯を担うスタッフをそろえるのが最優先という判断から、非常勤の看護職を積極的に受け入れることにしました。東京都看護協会が実施する復職支援研修にも、そうした流れの中で実施施設として参加しました。この復職支援研修には1日(座学のみ)・5日・7日コースの3種類がありますが、ほとんどの方が実習のある5日・7日コースを選択します。これまでに当院で研修を受講した約40人のうち2割ほどが当院で就職し、現在まで1人も離職していません。

 小野さんも復職支援研修を経由した一人ですが、当初は一連の業務を覚えるのに手いっぱいだったと思います。でも、患者さんに何が必要かを自分で考え、自律的に動ける一人前の病棟看護師になってくれました。今や、小野さんを「長いブランクがあった人」と認識しているスタッフはいないと思います。穏やかで辛抱強い性格のため、新しく就職した看護職への指導も丁寧ですし、業務以外の部分でも精神的に頼られている存在ですね。

 当院の看護職は、20歳代・30歳代・40歳代が約3割ずつ在籍しており、年齢層のバランスは良好です。一方で、結婚・出産適齢期の人が多いため、出産後も働き続けられるような配慮や、より具体的なサポートが欠かせません。出産後に復帰してもらっても、子どもが熱を出しても休めないような環境では、仕事を長く続けることは難しいでしょう。子育て経験者が復帰しやすい職場であれば、事情の分かる人が増え、突然の欠勤も「当たり前のこと」という認識が共有されていくはず。実際に当院では、お休みの電話がかかってきても理由を問い詰めたりせず、むしろ心配なく休んでもらえるように心がけています。

 一昔前であれば、子どもの熱で気軽に休むことも、時短で病棟勤務を希望することも、難しいことだったかもしれません。今や時代は変わって、病棟勤務でも多様な働き方が可能になっています。これから再就職を希望されている方は、かつて退職した頃とは事情ががらりと変わっていることを理解して、積極的にチャレンジしてほしいですね。

医療法人浩生会スズキ病院
東京都練馬区栄町7-1 TEL 03-3557-2001
99床
http://www.suzuki-hospi.or.jp/

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