本州で最も広い面積を持つ岩手県において、求職者と求人施設を的確にマッチングし、無理なく仕事を続けられるよう支援する岩手県ナースセンター。その取り組みの実際と県内の潜在看護職への思いについて、岩手県看護協会ナースセンター事業部長の森てる子さんにお話を伺いました。
岩手県内の潜在看護職に向けて、どのような研修プログラムを用意していますか。

森 ブランクのある求職者に就職への足がかりとしてほしいのが、5日間の「看護職再就業支援研修会」です。まずはその年度の担当病院における3日間の講義と演習で、感染予防、医療安全、採血などに関する最新情報に触れ、今の医療を肌で感じてもらいます。その後、県内各地の病院や介護福祉施設、訪問看護ステーションなど様々な施設と調整を図り、原則として受講者が希望する施設で2日間の実習を行います。定員の15人を超える参加者が集まることもある人気の研修で、参加者の再就職率も70~80%程度と高い水準にあります。
さらに個別性の高い充実した内容となっているのが「潜在看護職復職支援研修」です。看護研修センター(岩手県看護協会内)での8日間にわたる講義に加え、6日間の病院臨床実務と1日の介護福祉施設見学を実施しています。講義では、認知症ケアや緩和ケアを含め、現在の医療現場で必須となる知識を広く習得することができます。また、病院臨床実務の最初の1日は採血や吸引などの演習に当て、手技に自信を付けてから現場に出るよう配慮しています。ブランクが長い方にしてみれば、手洗いやエプロンの外し方からして「昔と違う!」とショックを受けることもありますからね。プログラム最終日に介護福祉施設の見学を入れたことには、広い視野で再就職先を検討してもらいたいという思いが込められています。
そもそも、本州で最も広い面積を誇る岩手県には「県内にあまねく均霑な医療を」という理念があり、それに基づいて20の県立病院が設置されています。今後は、各地区に県立病院があるというメリットを生かして、地区ごとにこのような研修事業を実施していけるよう計画を進めていきたいと検討しています。医療施設の意識も徐々に変化しており、「たとえ自施設に就職してくれなくても、地域のために看護職の研修を受け入れよう」と考えてくれる管理者が増えているのはうれしい限りですね。
求職者をスムーズに再就職につなげるためには、研修後のフォローも欠かせませんね。
森 受講者が研修から何を得たのか、そしてこれから何を必要としているのかを確認するため、研修直後に振り返りをする面談の機会を持つことが欠かせません。また、受講後少し時間を置いて、あらためて受講者に連絡することも大切です。受講者が元の生活に戻ってから、どのような心境の変化があったかを確認するわけです。このとき、個人的な経験則から重視しているのが「3」という数字。「3日」「3週間」「3カ月」というように、3にまつわる節目に心境の変化が起こるケースが多いため、そのタイミングを意識して連絡や情報提供などを行うようにしています。
また、特にブランクが長い方にとって、復職後にいきなりフルタイムで働くことはかなり厳しいものがあります。体力的にはもちろん、仕事を始めて日常生活が大きく変化することは、家庭にも大きな影響を与えます。看護職であれば、まずはパートタイムや時短勤務から始め、慣れてからフルタイムに移行することも十分に考えられますよね。「復職を促進すること」だけでなく「定着させること」もナースセンターの役割ですから、無理なく仕事を続けられるよう、求職者自身へはもちろん、医療施設にもそのようにアドバイスすることが少なくありません。
各地区の求職者や求人施設の情報を把握するためには工夫が必要ですね。

森 ハローワークとの連携が欠かせないと考えています。当センターでは、厚生労働省がハローワークとの連携事業を推進するのに先駆けて2013年頃からハローワーク盛岡と粘り強く交渉を重ね、情報共有や相談所の開設をスタートさせていただきました。以後も徐々に連携先を増やし、2017年度には県内10カ所(ハローワーク花巻・久慈・北上・釜石・大船渡・水沢・一関・二戸・盛岡・宮古)で定期的に「看護のおしごと相談」を開催しています。それぞれのハローワークに、その地域の看護職である就業支援専門員を配置し、ハローワークの職員と協力し合いながら相談に応じているのです。
相談担当員は地域の医療施設に知り合いがいることも多く、「今、相談に来ている方が見学を希望されているので、私も一緒に行くからお願いしていい?」などとフットワーク軽く対応できます。
岩手県全体を見渡すと、東日本大震災の被災地、特に沿岸地域では、まだまだ看護職が大幅に不足しています。病院や介護福祉施設、さらには保健所などを含めて、今でも200件を超える求人があるのが現状なのです。いまだ現地は厳しい状況です。再就職を考えるときに少しでも目を向けてもらえるとうれしいですね。
ナースセンターからの情報提供や広報活動などで注力されていることはありますか。
森 求人情報をまとめた小冊子をナースセンターの登録者に毎月お送りしています。この小冊子を見て、「〇番の情報が気になるので、もう少し詳しい内容を教えてください」といった連絡が来ることも多いです。これまで登録者は40歳代までの方が中心だったのですが、ここ1~2年は50~60歳代の方も増加しています。いわゆるアナログ世代にとっては、e-ナースセンターを使って自力で検索するのが億劫なこともありますから、紙にまとまった情報というのはニーズがあるのです。
ナースセンターについては、これまでにラジオCMを流したり、地方紙や情報誌に広告を掲載したりといった広報活動を展開してきました。さらにテレビの地方局がナースセンターを取り上げたこともあり、「○○で見たのですが、私も登録する必要がありますか?」といった問い合わせが来ることも増えました。
少し気になっているのは、登録に際して自分の個人情報がどのように扱われるのか不安に思う方が少なくないということ。ナースセンターは登録された個人情報に基づいて必要な情報提供を行うことはあっても、勝手に個人情報を漏らすようなことはあり得ませんから、その点は安心してほしいです。ナースセンターの職員は、電話で相談を受ける際は子機を持って個室に移動するくらい、個人情報保護には気を使っています。
岩手県の看護職の皆さんへメッセージをお願いします。
森 日程などの都合で研修を受けられない方は、ナースセンターに備えてある教材で個別に学習するという方法もあります。相談室には看護職向けのテキストやDVD、さらには採血シミュレーターなどがそろっています。基本的には、希望すればいつでも自己学習のために無料で使うことができますから、どんどん活用してほしいですね。
私自身が一人の看護職として重要だと感じているスタンスは、「よく働くためには、よく遊ぶこと」です。看護職にはまじめな人が多く、「ブランクが空きすぎてはダメだ」とか「働くならフルタイムで一生懸命やらなくては」とか、思い詰めてしまうケースも多く見受けられます。しかし、自分のワークライフバランスを大切にして、趣味などプライベートの時間も確保できてこそ気持ちの余裕ができ、柔軟な発想も浮かび、いい仕事ぶりにつながっていくのではないでしょうか。一人で考えていると悩みも煮詰まってしまいがちですから、中立な第三者であるナースセンターで気軽に相談できるということを覚えていてくださいね。

岩手県ナースセンター
〒020-0117 岩手県盛岡市緑が丘2-4-55
TEL 019-663-5206
http://www.iwate-kango.or.jp/kango04.html
●センターの主な事業内容
・看護師等の人材確保・定着の促進に関する事業:求人・求職の無料職業紹介・相談、情報提供、看護職再就業支援研修会の開催、未就業者への就業支援としての看護技術習得のためのDVD視聴・シミュレーション活用による演習
・看護職の労働環境等の改善による働き続けられる環境づくりの推進に関する事業:研修会の開催、WLB推進ワークショップ開催、各施設への情報提供など
・「看護の心」普及事業:看護の日健康フェア、ふれあい看護体験、出前授業、中学生・高校生・一般および進路指導担当者へのセミナー開催
・訪問看護支援事業:研修開催、相談・支援
●センターで今一番注力している事業
・再就業支援のための研修
・ハローワークとの連携
・離職時等における届出制度の推進と周知
●今後行いたい取り組み
・求人側への訪問等による多様な勤務形態や働き方についての情報提供
●離職者へのメッセージ
再就業のための支援に関する情報提供や一歩踏み出すためのお手伝いをします。
●その他のアピールポイント
お仕事を探している方、看護職を募集している施設、看護学生、仕事をしているが不安や悩みをお持ちの方などに対して、いつでもきめ細やかな心配りで向き合い、応援しています。
