「子育て支援」という声がよく聞かれるようになりました。女性が9割を占める看護の職場は、院内保育など子育てをしながら働く女性を支援してきたパイオニアです。出産や育児があっても、ワークライフバランスをとりながら仕事を継続したいと願う看護職に対して、現実的で多様な働き方を受け入れる施設が増えてきています。
 24時間の院内保育を核として、さまざま働き方を選択できるような仕組み作りに早くから取り組んできた総合守谷第一病院(茨城県)に、その実際をうかがいました。

 妊娠・出産を機に退職し、育児が落ち着いてから再就職するというのも1つの道。しかし、ライフステージに沿った多様な働き方の選択肢があれば、仕事の継続を希望する看護職は退職せずに済み、職場としても貴重なスタッフを失わずに済みます。
 日本看護協会が2013年に作成した「看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」では、夜勤時の仮眠時間の設定や夜勤後24時間以上の休息確保などに加えて、多様な勤務形態の導入と展開、個人単位の勤務形態への発想転換を提唱しています。これによる施設側のメリットとして、通常の勤務形態では辞めざるを得なかったスタッフが継続勤務できることで人員の確保ができること、また勤務時間帯パターンを多く持つことで忙しさに合わせた人員配置が可能になることを挙げています。
 また2012年の診療報酬改定では、入院基本料算定病棟の看護職員配置について、「出産、育児又は家族介護に関する休業等が確保されるよう配慮を行うこと」という文言が明記されました。さらに、2016年度の診療報酬改定では看護職員夜間配置加算が拡充され、「夜間看護体制の充実に関する評価項目」の中に、上記ガイドラインから3項目(①勤務間隔11時間以上、②3交代制では正循環の勤務編成、③連続夜勤2回まで)が取り入れられました。

 今回紹介する総合守谷第一病院は1990年の開院当初から、理事長や初代看護部長の理解もあり看護職の子育て支援に力を入れてきました。現在184人いる看護職の平均年齢は38歳、約40%が子育てをしながら勤務を続けています。

社会医療法人社団光仁会
総合守谷第一病院
203床
茨城県守谷市松前台1-17
http://www.moriya.daiichi.or.jp/
離職の理由が働き方にあるのなら
働き方を変えられるようにする

 守谷市は、東京都心から30kmほど北東に位置し、つくばエクスプレスが2005年に開業したこともあり、住みやすいベッドタウンとして開発が進んでいます。その常総ニュータウンの一角に位置する病院の敷地内にある光保育園は、開院とほぼ同時に運営をスタート。当時、24時間保育のできる院内保育園は珍しく、これまで多くの看護職が同園を利用して仕事と育児を両立させてきました。同園では0~5歳児を受け入れるだけでなく、夜間・土曜日・休日に限り学童保育としての機能を兼ね備え、いわゆる「小1の壁」による退職を防ぐ役割も担っています。
 勤務体制については、1995年から三交代制・二交代制の選択を可能にしました。三交代制(日勤=8:30~17:00、準夜勤=16:30~0:30、夜勤=0:00~9:00)を基本としながら、希望に応じて二交代制(日勤=8:30~17:00、夜勤=16:30~9:00)を選ぶことができます。二交代制では夜勤の時間が長くなる一方、子どもが保育園でしっかりと睡眠を取って、朝になってから一緒に帰宅することができ、育児と両立しやすい側面があるためです。

 看護部長の宮本俊子さんは、「離職の理由が働き方にあるのなら、働き方を変えられるようにします」と力強く話します。
 宮本さんは開院とほぼ同時に入職し、3人の子どもを育てながら現在も仕事を続けています。光保育園には合計9年間もお世話になり、3人目の子は今年3月まで学童保育を利用していたそうです。
 実は、3人目は師長職に就いてからの出産で、前例のないことでした。しかし、当時の看護部長が「良かったね!」と心から祝福してくれたことがとても印象的で、「役職に就いても妊娠・出産できるという“前例”に自分がなろうと決心できた」と宮本さんは話します。
 「制度面が整っていることも大切ですが、お互いに大変な時期を支え合う風土があるからこそ、安心して子育てができるのだと実感しました」と宮本さん。最近、師長職のスタッフが妊娠・出産したので、今度は宮本さんが「良かったね!」と言ってあげる立場です。

看護部長 宮本俊子さんに聞く
誰かに負担が偏らない仕組み作りが大切です

柔軟な勤務体制を提供するためには、どのような点に留意すべきでしょうか。
 現在、総合守谷第一病院では約4割の看護職が二交代制の勤務です。さらに、日勤常勤や時短、パートタイムをはじめ、様々な働き方を受け入れています。多様な働き方をするスタッフが共存していくために重要なのは、誰かに負担が偏らない仕組み作りですね。例えば夜勤の際、勤務時間の長い二交代のスタッフに優先的に休憩を取らせがちだという指摘を受けたことがあります。そこで、二交代のスタッフの休憩時間を「準夜勤帯に30分+夜勤帯に1時間30分」と分けるなど調整・周知した結果、三交代のスタッフもほぼ確実に休憩を取れるようになりました。また、どちらの勤務体制を選んでも、夜勤手当の時間単価が変わらないようにしています。休憩や手当での不平等感に対しては、特に意識的にケアする必要がありますね。

離職率が年々低下しているとのことですが、
その理由は何だとお考えですか。

 確かに、離職率は2011年の12.5%から2013年の6.4%まで、半分近くに低下しました。大きな要因として、退職希望のスタッフに対して聞き取りを行い、働き方が障害となっている場合は可能な限り対応していることがあると思います。例えば、退職を希望する理由を突き詰めてみると、結局「休日の勤務が難しい」という単純なことだったりするケースもあるのです。それなら、非常勤のスタッフとうまく組み合わせるなど工夫することで、仕事を続けることができます。また、定年(60歳)に達したスタッフを再雇用するケースが増えたことも、離職率低下の要因の1つでしょう。

今後の課題があれば教えてください。
 当院では、指定の研修については出勤扱いで参加できますし、もちろん研修費も支援しています。研修に参加する場合も、通常勤務の場合と変わらず保育園を利用することができます。今後は、より多くのスタッフがより多く学びの機会を持てるようにして、単に仕事を続けるだけでなく、看護師として成長しキャリアアップできるようにしていきたいですね。特に、認定看護師の育成に関しては急務だと考えています。現場の声を拾い上げながら制度を整えていくことで、仕事と育児を両立する看護職を今後も応援していきたいですね。

内科病棟勤務 中村育子さん(看護職歴21年)に聞く
子どもの成長に合わせて少しずつ勤務時間を増やしてきました

総合守谷第一病院での勤務歴を教えて下さい。
 結婚を機に茨城県へ引っ越してきて、当院に入職してから12年になります。現在、11歳・6歳・1歳半の3人を育てながら日勤常勤で働いていますが、途切れることなくキャリアを積むことができたのは、柔軟な勤務体制と24時間保育があってのことでした。
 もともとは標準的な三交代制で働いていましたが、1人目を出産してから午前中のみのパートタイムに。子どもの成長に合わせながら少しずつ勤務時間を増やしていき、2人目の育児が落ち着いた頃に日勤常勤となりました。両立に慣れてきた3人目については、特に時短の時期は設けず、そのまま日勤常勤で働き続けることができました。
 産前産後休業をきちんと取得できることはもちろん、自分のライフプランや子どもの状態を相談した上で、勤務体制を考慮してもらえるのが嬉しかったですね。また、病院と連携の取れている24時間オープンの保育園が敷地内にあるというのが最大の強み。自分が働いているすぐ近くの、安心できる環境に子どもがいてくれることで、集中して仕事に取り組むことができます。
 働きながらの子育てを継続するために大切なのは、限られた時間の中で子どもたちと濃密なコミュニケーションを取ることだと思います。宿題を見ながら、お風呂に入れながらといった当たり前の日常生活の中で、丁寧に会話を重ねていくことを意識しています。忙しい毎日ですが、手厚いフォロー体制があることを生かしながら、これからも仕事に育児に頑張っていきたいと思います。

子どもが元気に過ごしているからこそ、親は仕事に打ち込めるもの
光保育園専任園長代理 後藤秀子さん

 総合守谷第一病院の敷地内にある当園の最も大きな特徴は、本院に勤務する看護職員を中心に、医療従事者のお子さんを24時間にわたって保育すること。園内で長い時間を過ごすことから、子どもにとっては「第2の家庭」となるよう、家庭的な保育を心がけています。食事や睡眠といった日常生活を共にしながら、「ママと同じくらい信頼できる」と感じてもらえたらうれしいですね。
 夜間に保育する場合は、18:00から夕食をスタート。紙芝居や絵本で徐々に子どもの心を落ち着かせ、21:00には就寝準備に入ります。朝は6:30に起床させ、朝食や着替えを済ませ、9:00には準備万端で降園できます。また、夏祭りやクリスマス会といった季節のイベント、保育参観やおゆうぎ会などの行事も、一般的な保育園と変わらず行います。病院の隣にある大山公園は緑がいっぱいで、散歩や外遊びの場として日々利用しています。
 子どもはもちろんですが、保護者である看護師の皆さんを支援し、心から信頼されることが大切です。例えば、子どもの体調が思わしくないときは、保護者の勤務する部署にすぐ連絡を入れるようにします。園まで子どもの様子を見にきてもらったり、そのまま本院の小児科を受診してもらったりすることも可能です。
 最近では、3~5歳児は日中に別の幼稚園に通わせるケースが増えています。これは、徐々に入園希望者が多くなったため、保育の質を保つために幼稚園との併用を勧めるようになったことが大きいですね。他の幼稚園の二次保育で預かっているお子さんの場合は、当園の職員が園バスへのお迎えに行く「送迎支援」を実施し、スムーズで途切れない保育を心がけています。
 子どもが元気に過ごしているからこそ、親は仕事に打ち込めるもの。当園は、子育てをしながら看護の仕事で社会貢献を続ける皆さんを、ずっと応援し続けます。

【社会医療法人社団光仁会 総合守谷第一病院 光保育園概要】
・場所:総合守谷第一病院 管理棟1階
・保育時間:(日勤)8:30~17:00
      (準夜)16:30~0:30
      (深夜)0:00~9:00
      ※延長保育に適宜対応
      ※小学1~3年生は土曜日・休日・夜間のみ
・食事:完全給食制(預かり時間によって、朝食・昼食・おやつ・夕食を用意)
・子どもの人数:53人(0~3歳児:25人、3~5歳児:20人、小学生8人)
・スタッフの人数:15人(医療法人の職員)
・守谷市の委託を受けて病後児保育も行っている

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