徳島県ナースセンターは、復職に向けて求職者の不安を取り除く演習や実習をその人の事情に合わせて個別に行う一方で、南部・西部圏域の求人施設を集団で直接訪問し実際に現場を確認する「出前就職ガイダンス」という取り組みを行うなど、求職者の希望や気持ちに応じた臨機応変な対応を行っています。その詳細を伺いました。

ナースセンターが取り組んでいることを教えてください

「勤務条件を伝えるだけでなく、求職者が行いたい看護にも丁寧に耳を傾けたい」と話す徳島県ナースセンター責任者の住吉貴美さん

住吉 徳島新聞社が主催する「看護職合同就職ガイダンス」に、平成26年度からナースセンターのブースを設置させてもらっています。開催日までに新聞紙上で10回ほど開催概要が告知されますが、平成28年度はこの中でナースセンターへの届出のことも毎回掲載してもらいました。
 「とどけるん」の開始は、ナースセンターと離職者とがつながるチャンスと捉えています。平成28年3月末の時点で156名が登録していますが、その中で「すぐに復職したい」という人は30名、「いずれ戻りたい」という人は31名です。「すぐに」と思っている人は本当にすぐに決まります。「いずれ」という人たちにどのように情報を伝え支援していくかが重要だと考えています。
 県内の看護職の多くはナースセンターがどのような活動をしているかよく知らないため、まずは活動内容を周知する必要があると考えています。

緒方 ナースセンターに登録している施設数と求職者数の比率は3:1で、求職者の5割近くは即、就業につながりにくい方となっています。

住吉 就業中の方であっても、「育児や介護で夜勤が難しくなった」という方や「通勤距離が遠すぎる」といった方は、キャリアを継続していただくために力を入れてサポートしています。求人施設の多くは夜勤ができる正規職員を求めていますが、求職者の多くは「短時間勤務」「夜勤なし」「土日祝日休み」といった条件を希望するため、何とか施設に譲歩してもらっているというのが実状です。

事情に合わせて柔軟に対応

緒方 一方、復職を考えている方に対しては、復職への不安解消を目的とした復職研修を行っています。以前は集合研修のみでしたが、その期間に参加できないという人が多かったため、平成27年度から受講者の希望日時に個別演習や職場体験ができるようにしました。不安があれば個別演習を受け直すことも可能です。開催場所も従来はナースセンターがある徳島県看護会館のみでしたが、県南部と県西部の徳島県看護協会訪問看護ステーションでも始めました。

住吉 研修内容として、講義、集合研修、演習の3つがあります。
 平成27年度は、まず9月9日に徳島県看護会館で講義を行いました。テーマは「看護の動向・看護の責任と倫理」「医療事故防止」「呼吸器・循環器フィジカルアセスメント」の3つですが、1講義からでも受講可能としました。
 また9月16日に看護技術の集合研修を徳島県看護会館で行いました。「採血・注射」「胃瘻」「喀痰吸引」「導尿」「AED」に関するシミュレーションとDVDの視聴です。同様の内容を、阿南と半田の訪問看護ステーションを加えた3カ所で個別演習として行いましたが、受講項目は選択制としました。
 臨床実務研修は10月と11月の平日、受講者の希望する協力施設と日程で2日間、また1日だけの職場体験も実施しました。
 平成26年度には4人にまで減っていた受講者が平成27年度には34人にまで増え、そのうち20人が再就職しました。

徳島市のある東部に看護職が集中していると聞きました

「看護は相手からもらうメッセージによって“やりがい”を感じ、人として成長する。その感覚をもう一度得ようと思った時はナースセンターを利用してほしい」と話す徳島県看護協会専務理事の緒方静子さん

緒方 はい。徳島県は徳島市を中心とした東部地域、阿南市や海部などの南部、美馬市や三好市などの西部に分かれていますが、南部と西部の看護職不足をどう改善するかが大きな課題です。南部と西部はナースセンターのある徳島市からは遠いため、それぞれの地域にエリアマネージャーを配置し、阿南と半田の訪問看護ステーションを拠点に医療機関や学校を訪問するなどしています。

住吉 ナースセンターに南部・西部地域の方から相談の電話がかかってきた場合、近くに相談員が常駐していることをお伝えしています。また相談者が事務所に来られない場合、エリアマネージャーが出向いて相談を受けるなど、地域の実状に則した活動をしています。さらに月に1回は、遠方の三好市周辺の方のために、ハローワーク三好でも相談を行っています。

「出前就職ガイダンス」という取り組みも行っているとか

住吉 ナースセンターのスタッフと一緒にバスで10カ所程度の施設を回るというもので、南部と西部で平成26年度からスタートしたものです。
 給与や勤務日といった条件だけで就職を決めても、すぐ辞めてしまう人がいることにずっと頭を悩ませていました。どんなに条件が合っていても、実際に働くとイメージとのギャップに直面します。それなら「事前に施設に行って、雰囲気や細かい労務状況を確認してから採用面接を受ければよいのではないか」と考えました。さらに、「自分一人で行くのは気が引ける」という方々は我々がしっかりサポートしていこうと。「経験年数に応じて時給額はどう変わるか」などといった求職者が聞きたくても聞きにくいことを、私たちが確認する場合もあります。
 病院だけでなくクリニックや老人ホーム、デイサービスなどさまざまな施設を回るため、ノーマークだった施設で自分の希望する働き方ができることがわかるケースもあります。ある参加者は「常勤は難しい」と思っていましたが、週3日からの勤務を受け入れている施設があると知り入職しました。3年後の今では常勤で働いています。
 一つの施設だけの参加も可能です。待ち合わせ場所を決めておいて、そこからバスに乗ってもらいます。
 やはり現場に行かなければわからないことがあります。そこで働いている職員の顔を見て、「ああイキイキしているな。ここなら働けそうだ」と感じる場合もあるようです。

自分の目と肌で感じることが重要なのですね

住吉 ええ。メリットは施設側にもあります。この取り組みが始まる前に、初めて施設側に協力を依頼したときは、「履歴書も持たずに来る人に条件を伝えるのは……」といった抵抗もありました。私たちが「施設のいいところをPRできますよ。看護職は横のつながりが大きいので、たとえその人が決まらなくても、よかったと感じたら周りの友達に伝わっていきますから」と伝えました。
 始まってみると施設側の対応も変わっていきました。初めの頃は、看護部長だけが対応する施設が多かったのですが、2年目には事務長も同席して福利厚生の説明をするなど、PR能力が向上しています。施設からは「自分たちの施設の労働条件、勤務環境を見直す良い機会になりました」という声も寄せられています。2回目のガイダンスの際は、1回目より条件がよくなっていることもあります。
 ナースセンターにもメリットがあります。求人情報以外の福利厚生などの情報が聞けるため、他の求職者に、より詳細な情報を提供できます。
 平成27年度からは、「オープンホスピタル」といって、手を挙げた求人施設1か所にターゲットを絞って見学を行う取り組みも開始しました。これは、東部で実施しました。

離職されている方にメッセージをお願いします

住吉 勝っても負けても応援し続けるサッカーチームのサポーターのように、私たちも看護職のサポーターであり続けたいと思います。離職された方の心に寄り添いながら、「看護職でよかった」「働き続けてよかった」「届け出してよかった」と思ってもらえるよう支援していきたいと思います。

緒方 ナースセンターには県内の医療機関の詳細な情報が集まります。看護協会は働き方の支援体制を整えています。ぜひ就職前・中を通して、ナースセンターや看護協会を役立ててほしいと思います。

徳島県ナースセンター

〒770-0003 徳島県徳島市北田宮1丁目329-18
TEL 088-631-5544

https://tokushima-kangokyokai.or.jp/

●センターの主な業務内容
1. 無料職業紹介
2. 未就業看護職の状況の把握及び就業に関する相談応需、就業促進
3. 復職研修の実施
4. ハローワークとの連携
5. 届出制度周知と関係機関への届出協力依頼
6. 地域の実情に合わせた求職・求人相談等
7. 看護の心普及事業
 (看護の日・看護週間行事、ふれあい看護体験、看護の出前授業、進路説明会等)
8. 訪問看護師養成講習会(eラーニングを利用)の実施

●センターで今一番注力している事業
1. 求職者・求人施設に役立つ就職相談会の実施
2. 受講者のニーズに合った復職研修の実施
3. ナースセンターの周知と機能強化
4. 届出制度周知と届出者への支援
5. 求人施設の勤務環境改善支援

●今後行いたい取り組み
1. ナースセンター周知のための広報活動
2. 効果的な復職研修の実施
3. 届出後のつながりと情報提供
4. 求職者への再就業支援体制強化

●離職者へのメッセージ
 貴方の取得している看護職の免許は、生涯使用可能です。看護職を必要としている求人施設は多種多様です。いろいろな場所で貴方の力を必要としています。自分のライフスタイルに合った場をナースセンタースタッフと一緒に探してみませんか。先日訪問した施設で、看護師としてご活躍されている75歳の方を紹介していただきました。イキイキと働かれていて、素敵な笑顔から看護職のオーラが。

●ナースセンターから一言
 徳島県ナースセンターは、県南部・県西部にエリアマネージャーを配置し、徳島県看護協会が運営する徳島県看護協会訪問看護ステーション阿南と半田を拠点に、地域の実情にあわせた求職・求人相談応需、就職ガイダンス、復職研修等を実施しております。
 求職相談だけでなく、看護の現場や人間関係等でお悩みの方にもご利用いただける看護職相談室もあります。
 お気軽にご相談ください。

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