新卒で在宅医療に携わることを選択し、結婚後は専業主婦となった篠原知己さん。しかし、夫との死別をきっかけに自身のキャリアについて思いを巡らせ、ゼロから学ぼうと病院勤務に挑戦することを決意します。現在は新座志木中央総合病院の人工関節リウマチセンターで活躍する篠原さんに、復職に関する経緯を伺いました。

篠原さんは新卒で在宅医療の道を希望したそうですね。

 学生時代の実習で、自宅で治療やケアを受けながら幸せそうに暮らす患者さんの姿を見て、在宅医療の世界に強く魅かれました。しかし、当時は新卒で訪問看護の道に進むという選択が考えにくい時代だったため、医療短大を卒業して最初は巡回訪問入浴サービスを提供している民間企業で働くことにしました。そこで4年間働いた後、「臨床経験なしでもかまわないから若い訪問看護師を育てたい」という所長さんに出会い、訪問看護ステーションに転職したのです。
 初めは先輩看護師に同行してもらいながらOJTで学んでいき、できる処置の幅や受け持ちの患者さんが少しずつ増えていきました。重労働ではありましたが各家庭で患者さんやご家族と深くつながることができ、学生時代からのあこがれの仕事に就いているという喜びは大きかったです。

 ただ、患者さんの多くは医療依存度のさほど高くない高齢者だったことから、業務内容はルーチンな処置やケアがほとんどでした。病院での臨床経験を持たないために看護職としての「土台」を欠いているような気がして、心のどこかで後悔や不安もあったのかなと思います。

現在は病院勤務ですが、職場を変えたのはどのような経緯からですか。

 訪問看護ステーションに7年ほど勤めた後、結婚を機に退職しました。すぐに子どもを授かり、復職については特に考えずに専業主婦として平穏な生活を送っていました。ところが今から4年前に夫が急死してしまい、生活ががらりと一変、都内から両親と同居するために埼玉県に戻り、夫の事業の整理や子どもの心のケアで日々が過ぎました。

 生活が少し落ち着いて、いよいよ復職に向き合うことになりました。経済的な問題をクリアすることはもちろんですが、「息子に働く姿を見せられるのは私だけ」「誇りを持って仕事している背中を見せたい」という気持ちが強かったのを覚えています。とはいえ、病院での臨床経験がなくブランクが約11年もある状態で、看護職として復帰できる場が本当にあるのか不安でした。「まったく別の仕事に就く可能性も考えなくては……」と考えることもありました。

 パソコンでいろんなことを検索していて目にとまったのが、埼玉県ナースセンターによる復職支援事業の情報でした。ナースセンターに電話で問い合わせてみると、ちょうど年度の切り替わりで新年度の復職支援セミナーがスタートするというタイミングで、さっそく自宅から通える範囲で施設を探し、近隣の訪問看護ステーションで2日間、そしてここ新座志木中央総合病院で3日間の復職支援セミナーを受講しました。どちらも魅力的な職場でとても悩みましたが、病院での臨床を経験できる最後のチャンスかもしれないと考え、当院への入職を希望したのです。

今はどのようなかたちで働いているのですか。

 当時は、子育てに加え仕事も早期に自立しなくてはという考えもあり、常勤で働くことにこだわっていました。しかし、看護部長から「まずは非常勤から、ゆっくりと仕事に慣れていっては?」というアドバイスをもらい、日勤非常勤として8:30~17:00という時間帯で働くことにしました。入職2年目となった今では、13:00~21:00の遅番業務を担当することも少しずつ増えてきました。あのときの看護部長の的確なアドバイスには本当に感謝しています。

 私が所属している部署は、人工関節置換術をメインに行う人工関節リウマチセンターです。最初の3カ月間、プリセプターから丁寧に仕事を教えていただいたので、ブランクがあることによるつらさは感じませんでした。私の場合、本当にゼロからのスタートだったので、かえって身構えることなく、まっさらな気持ちで学んでいけたのかもしれません。

 復職当時は小学4年生だった息子も、今では6年生になりました。家庭の状況や私の仕事についてもよく理解してくれていて、仕事と子育ての両立に悩むことはありませんでした。もちろん、当院は子育て世代の看護師が多いため、急なお休みなども理解してもらえる雰囲気や体制があり、互いに協力し合える関係性に助けられた面も大きいと思います。

今後の目標と、復職したいと考えている看護職へのメッセージを聞かせてください。

 人工関節リウマチセンターでは、手術後、社会復帰へ向けて退院調整等に時間を要する患者さんもいらっしゃいます。訪問看護師としての経験を生かして、今度は病院から在宅医療を見据えることで、患者さんの退院後の生活まで考慮したケアや声かけができるよう心がけています。患者さんやご家族が笑顔で退院の日を迎え、「皆さんのおかげで安心して自宅に戻れます」といった言葉をかけてくれたとき、この仕事を頑張ってきて良かったと心から思います。

 私は看護師としてまだまだ発展途上ですが、日々の業務に誠実に取り組み、少しずつでも着実に成長していきたいです。これまで在宅医療で経験してきたことが当院での学びによって整理され、「あのときの患者さんは、こういう経過があって在宅に戻ることができた」「リハビリテーションにはこんな意味があった」など知識確認ができ、より深い理解につながっていると思います。将来的には、当院で学んだことを在宅の現場に還元していければ――というのも目標の1つです。

 40歳を過ぎての病院就職は不安なことだらけで、問い合わせの電話1つかけるにしても大変な勇気が必要でした。しかし、あのときに思い切って一歩前へ踏み出したからこそ、今の充実した毎日を送ることができています。入職前に看護部長とじっくり話し合う時間を取っていただき、家庭の状況や希望する働き方を再確認できたことは、復職するにあたって大きなポイントになりました。まずは一歩を踏み出す勇気を持ち、同時に自らの置かれた状況を冷静に見つめる時間を作ることで、本当に満足できる復職につながるのではないかと思います。

長い目で見て着実に成長できるようサポートします

看護部長 峯岸秀美さん

 当院でブランクのある方を採用するとき、最も重視しているのは人柄とやる気です。入り口の段階では看護技術の水準を見ることはあえてせず、採用後にきちんと教育することで成長していただく方針としています。篠原さんの第一印象は「笑顔が素敵」「気遣いができる」「姿勢が良い」というもので、患者さんに対しても素晴らしい接遇が期待できることが採用の決め手となりました。ただ、自身のキャリアに関して非常に謙虚な考え方をしていたので、途中で心折れることなく仕事を続ける熱意があるか、そしてご家族(親族)の協力体制が期待できるかどうかについて、事前に話し合いを重ねて確認していきました。入職後の篠原さんは最初の印象の通りです。

 病院勤務が初めてだった篠原さんを、整形外科病棟の人工関節リウマチセンターに配属した理由は3つあります。1つ目は、常に全体が見渡せるコンパクトなフロアであること。22床のセンターですから、ちょうどいいサイズ感だと考えました。2つ目は、比較的安定した(他科がほとんど入らない)急性期の一般病棟であり臨床実践力が身に付きやすいこと。3つ目は、入院する患者さんが複合疾患を抱えていないことが多いこと。篠原さんに限らず、ブランクのある方が仕事の感覚をつかみやすいように環境を整えるという視点で、ベストの配属先を見つけたいと思っています。

 当院にブランクのある方が入職された場合、その時期が4月であれば新人研修プログラムへの参加を勧めますが、基本的には各人に応じたオリジナルの復職支援プログラムを用意します。その後、プリセプターの指導の下、OJTで現場の業務を学び計画的な評価を実施、年間計画では中途採用者対象のフォローアップ研修を開催いたします。フォローアップ研修は、最新の看護技術についてはもちろんのこと、地域で求められている当院の役割や医療情勢の現状など、看護職として広い視野を育めるような内容を含んだものです。

 当院では職員の子育てと仕事の両立を支援することも重視していて、看護職の育児休暇からの復職率100%という実績があります。子育てが、ひと段落するまで十分に育児に専念していただいていることが、復帰につながっていると考えます。多くの方々が短時間勤務制度や院内保育などを活用し、徐々に勤務時間や日数を増やしていきます。決して無理な背伸びを強いることなく、長い目で見て着実に成長できる環境調整や、自身のペースでキャリアコントロールできるよう細やかな対応・支援が重要だと考えています。

医療法人社団武蔵野会
新座志木中央総合病院

埼玉県新座市東北1-7-2 TEL 048-474-7211
327床(平成29年度402床へ増床)
http://www.niizashiki-hp.jp/

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