ゆいレール首里駅から車で5分ほどの場所に立地する沖縄県ナースセンターは、緑あふれる開放的な雰囲気が印象的。モダンな建物の中では、技術研修をはじめとした様々な復職支援事業が行われています。沖縄県看護協会常任理事でナースセンター長の宮城ともさんと、ナースセンター職員の仲本瑠美子さんに、沖縄県における看護職の就業支援についてお話を伺いました。
潜在看護職に対して、どのような再就業支援を行っていますか。

宮城 沖縄県ナースセンターが提供する再就業支援の二本柱が、「看護技術トレーニング」と「潜在看護師再就業支援事業」です。
看護技術トレーニングはナースセンターがある沖縄県看護協会看護研修センターの技術演習室で毎週行われ、求職中の看護職が最新の看護技術を身に付けて再就職できることを目標としています。具体的には、月の1週目と2週目は吸引、経管栄養、AEDについて、3週目と4週目は採血、点滴、注射について演習を行っており、2回参加すれば網羅的に学び直せる仕組みです。「体で覚えたことは忘れづらい」とは言われますが、現場から離れるとちょっとしたコツを忘れてしまうことが多々あります。不安そうな顔で来所された人が、数時間のトレーニングの後に看護職としての自信を取り戻し、さっそく就職情報を調べていくという姿も多く見られます。
一方の潜在看護師再就業支援事業は、原則1年以上のブランクがある潜在看護職を採用した施設に対して、3カ月間の研修期間中に10日分相当のOJT指導料・研修受講料を補助するものです。この事業で再就業した看護職はじっくりと院内研修を受けられるほか、沖縄県看護協会での研修にも3日間参加することができます。受け入れ施設に看護職の指導者がいることや研修計画を作成することが参加条件となっているため、ナースセンターの担当者が月に1回施設を訪問して研修評価を行っています。
この事業が始まった2010年から2016年までの間に、事業の形態に変化はありますが88施設が参加し、122人の看護職が再就職を果たしました。沖縄本島だけでなく離島の施設も数多く参加しており、その場合は看護協会での研修をインターネットや現地で実施するなど調整しています。ナースセンターが看護職を紹介するときに施設に利用を勧めるなどして、この制度の利用を前提として復職された方もいます。
仲本 そのほか、就業中の看護職と未就業の看護職が交流する場として、潜在看護師交流会(ジョブCafe)を年に1回開催しています。潜在看護師再就業支援事業を利用して再就業を果たした先輩からメッセージをもらったり、不安な点を先輩に質問したりすることで、再び看護の道へ踏み出すきっかけにしてもらえたらと考えています。10月に開催した前回のジョブCafeには未就業看護職18人、就業中の看護職3人が参加し、大いに盛り上がりました。出産や育児でブランクがあるというだけでなく、様々な事情で看護の仕事から離れた人もいたのですが、この交流会を通して看護への思いを再確認できたようです。
求職者と求人施設を的確にマッチングするために、どのような工夫をしていますか。
宮城 私たちは普段から、ホワイトボードや付箋を活用した視覚的なミーティングを行っています。病院やクリニックなど施設の種類ごとに求人情報をホワイトボードに掲げ、そこに求職者の情報を1人1枚にまとめた付箋を貼り換えながら、誰がどの施設に向いているかといったことをスタッフで話し合うのです。ここで重要なのが、求職者と求人施設両方の情報をなるべく細かく把握しておくこと。例えば、移動手段がバスや徒歩の人と、車を運転できる人では、紹介できる施設がかなり違ってきます。また、フルタイムの求人を出している施設でも、「4時間なら働ける人がいますよ」などと情報を提供することで考え方や方針が変わることもあります。多様な働き方を支援することもナースセンターの重要な役割ですからね。

仲本 相談に来る前から「夜勤ができないからパートしかない」「年齢が高いから就職先がない」といった思い込みをしている求職者も多いですが、決してそうではないと伝えたいですね。近年、看護職の活躍のフィールドは多岐にわたり、採用の条件もそれぞれまったく異なります。例えば70歳代の医師が開くクリニックなら、高齢者とのコミュニケーションが得意で、カルテを紙で処理することに慣れている60歳代以上の看護職が歓迎されることもあります。どんな年齢や職歴でも、必ずどこかに求められる職場があるのです。企業内の保健室や保育園、介護施設など、求職者があまり実状を知らない職場からの求人も少なくありませんから、ナースセンターを訪れて、まずは多様な就職先を知ってほしいと思います。
保健師確保対策にも力を入れているそうですね。
宮城 本島北部や離島では保健師を1人しか配置できない市町村が多く、そうした状況で保健師が長期休暇や退職した場合の対応が取れず、その地域に保健師がいない状態になってしまい保健事業の執行に支障があった状況もありました。かねてより保健師を補充できる仕組み作りが大きな課題となっていました。そこで現在では、「退職保健師・潜在保健師人材バンク事業」として、その地域の保健師が長期に休む場合などに、人材バンクに登録した退職保健師や潜在保健師が短期間スポット的な応援をできるようになっています。
また、「離島における保健活動体験セミナー」として、保健師を目指す看護学生に3泊4日で離島の保健師業務を体験してもらっています。離島で活躍する現役の保健師に密着するかたちで現場を知ってもらい、将来的に離島で働くことを視野に入れてもらうのが狙いです。
ほかにも沖縄県ならではの事情や特徴的な取り組みはありますか?
仲本 他県からの移住希望者が多いということが挙げられます。「まだ住むところも何も決まっていません」という状態で、とりあえず就職先を決めるためにナースセンターを訪れる人もいますから、「どのエリアに住みたいですか?」「どんな働き方をイメージしていますか?」などと質問しながら、生活全体をカウンセリングしていくこともあります。逆に、「この病院で働いてみたい」という強い希望がすでにある場合は、たとえ公式に求人が出ていなくても個別に問い合わせ、面接してもらえるよう直談判することもあります。
宮城 ハローワーク那覇およびハローワーク沖縄と連携し、巡回就業相談も行っています。求人情報を共有したり求職者を紹介し合ったりする中で、どこが実績を挙げたかという数字にこだわることなく、あくまで求職者のためになることを重視して柔軟に対応しています。ナースセンターとハローワークで協力しながら支援した看護職が無事に復職し、お礼の手紙を送ってくれたときは本当にうれしかったですね。本島北部からの求人の問い合わせが増えている実感があるので、今後はより多くのハローワークと積極的に連携していきたいと考えています。
また、県内の新聞社2社の協力を得て、広告欄に空きが出たときにナースセンターや届出制度の情報を掲載してもらっています。つまり無料広告ですね。今後はオリジナルグッズを作るなどして、広報により力を入れていきたいです。ナースセンターの認知度はまだまだ十分とは言えませんので、まずはその存在や役割を知ってもらうところから地道に一歩一歩ですね。
ナースセンターがある沖縄県看護協会看護研修センターは、4年前に新設されたばかりのシンプルで現代的な建物が特徴です。相談室の中には子どもが遊べるスペースやベビーチェアもあり、子連れでも気軽に来所できます。どんな事情を抱えていたとしても、看護職の働きたい気持ちに寄り添い続けるのが私たちの役割。看護職の「心のよりどころ」であるナースセンターのことを覚えておいてくださいね。


●看護技術トレーニングの様子

沖縄県ナースセンター
〒901-1105 沖縄県島尻郡南風原町字新川272-17
TEL:098-888-3127
https://www.oki-kango.or.jp/nurse.php
●センターの主な事業内容
(1)ナースバンク事業(看護職の無料職業紹介事業)
・求人求職相談、就業促進、届出制度、NCCS(ナースセンターコンピューターシステム)の管理と運用
・ハローワークとの連携による巡回就業相談
・看護職員需要施設調査、看護職員退職者調査
・就職説明会(新聞社と協同の説明会、福祉人材センター主催の職場説明会)
・相談(メンタルヘルス、職場環境、その他)
(2)短時間正規雇用など多様な勤務形態の導入支援事業
・「看護職のWLBワークショップ」「看護職のWLBフォローアップワークショップ」の開催
(3)潜在看護職の再就業支援事業
・潜在看護職を採用した施設への支援
・潜在看護職の看護技術トレーニング研修の実施
・潜在看護職の交流会(ジョブCAFE)の実施
(4)沖縄県離島へき地の保健師確保対策事業
・「退職保健師・潜在保健師人材バンク事業」
・「離島における保健活動体験セミナー」の実施
(5)「看護の心」普及事業
・ふれあい看護体験、看護フェア、看護の出前授業、看護を目指す方への進路相談
(6)訪問看護師支援事業
・訪問看護師育成の支援
●センターで今一番注力している事業
・求人と求職者のマッチング(届出者、NCCS登録の求人・求職者へのナースセンターの関わり方)
・潜在看護職の採用施設支援と看護技術トレーニング支援
・潜在看護職の発掘に向けた交流会(ジョブCAFE)の実施
●今後行いたい取り組み
・新人保健師の人材育成への支援(プリセプター)
・広報の強化:ナースセンターの周知、届出制度の周知拡大、グッズなどの工夫(うちわ、ウエットティッシュ、看板、ナースセンター専用の封筒など)
●離職者へのメッセージ
あなたに合った求人施設をナースセンターのスタッフと一緒に見つけてみませんか? 一人で悩まず、ぜひナースセンターに来所してください。沖縄県ナースセンターは働きたいあなたをサポートします。
●その他のアピールポイント
沖縄県ナースセンターでは、潜在看護職の復職支援に力を入れ、看護技術トレーニングや潜在看護師採用施設支援をしています。「もう一度働きたい看護職を支援します!」をモットーに、潜在看護師交流会も開催しています。ホームページでご案内しますので、どうぞお気軽にご参加ください。



