福島県ナースセンターの巡回相談事業は東日本大震災後に避難所を回ることからスタートし、現在は県内6カ所のハローワークでの「巡回就職相談会」へと発展しています。また、独自に再就業支援研修を行うとともに、民間病院と連携した復職支援も行っています。独自の展開を進めてきたセンター事業の経緯と今後の目標について伺いました。
就業支援とともに求人開拓事業にも力を入れていると伺いました。

石田 東日本大震災の3カ月後の平成23年6月から福島県の委託を受け、避難所を巡回して看護職の再就職を支援する「避難所等看護職巡回相談事業」を開始しました。初年度に71回実施し、126名の相談を受け、41名の就職に結びつきました。
その後、避難所等にいる看護職達が仮設住宅等に住居を移し、避難所は徐々に閉鎖になり、平成24年度からは公共施設・社会福祉事務所やハローワークなども巡回に加え「看護師等求人開拓・マッチング事業」と名称を変え、巡回相談事業が拡大となりました。
当初は山形県や栃木県など県外も回り、避難している看護職の相談を受けてきました。しかし定住先が決まらないと就職には結びつかないこともあり、復職希望者の「ライフスタイルに合わせた働き方」を考慮しました。避難している方の場合は「先の見通しが立たない中、どういう形であれば働けるのかを傾聴し、要望に沿った支援をする」という点が重要でした。

佐藤 巡回相談は、平成25年度からは月1回県内6カ所(相双、平、会津若松、福島、郡山、白河)のハローワークの場所を借りて実施しています。また事前の申し込みにより、就職時の不安を軽減するために、相談会場で採血・静注シミュレーターを用いて「採血演習」を行っています。
求人開拓事業として、ナースセンターに未登録の施設もあるため、施設を訪問して登録を勧めるとともに施設の状況を相談員の目で確認し、求職者により詳細な情報を提供しています。また、求職者から入手した情報を基に施設に連絡をし、ナースセンターに登録していただいています。
ナースセンターへの相談者の総数は増加傾向にあり、平成27年度は2月末時点で354名、その内の190名(54%)が巡回相談に来た方です。
再就業支援研修について教えてください。
佐藤 平成25年度から始めました。初年度は1回の実施で7名の方が参加し、6名の方が就職しました。平成26年度は2回に増やし、21名が参加、8名が就職しました。平成27年度は3回行い、郡山市で2回、福島市で1回で、22名が参加しました。年齢は20代から60代で、ブランク期間は1カ月から30年と様々でした。研修受講生の中で9名の方が就職しました。さらに7名の方が子どもの就学などを待って就職活動する予定であることがわかりました。残りの6名は就職に至っていません。

猪越 対象者は、看護職免許を持つ未就業の方です。ナースセンター単独で始めた事業ですが、平成26年度からは県の委託事業になりました。
佐藤 研修の後に研修生が希望する施設で見学実習を行います。平成27年度は30年のブランクがあった67歳の方が、デイサービスへ再就職されました。
研修参加者の不安で最も多いのが注射・採血に関するものですが、皆さん体で覚えているので、演習ではすぐできるようになります。むしろ、受講しようという研修参加の決心がつくまでが大変なようです。受講生の方々は研修を通して、不安なのは自分だけではないと共感し、勇気づけられ一歩踏み出す動機付けになっているように思います。
民間の復職支援センターとも連携
民間の研修施設とも連携しているようですね。
石田 福島県には公立病院が少なく、これまで民間の病院が互いに切磋琢磨して質の向上を図ってきた歴史があります。平成26年にいわき地区の民間病院が公益法人化する際に「看護職復職支援センター」を開設し、福島県内の看護職が自由に利用できるようになりました。ナースセンターによる再就業支援研修の希望者がいても次回の開催まで間が空いてしまう場合は、そちらの復職支援センターに協力を依頼することもあります。
佐藤 この看護職復職支援センターのセンター長は、利用者に「技術的な支援は当センターで、就職支援はナースセンターで」と紹介してくださり、連携しながらそれぞれ役割分担をしています。
離職者へメッセージをお願いします。
石田 看護師等の離職届出をしている方で、就職活動をしている方はナースセンターへ登録することで、より個別的な支援を受けることができます。ぜひナースセンターへの登録をお勧めします。
ナースセンター、巡回就職相談会では、私たちは顔の見える対面での相談を大切にしています。
「求職者は段階を踏んで就職へ進む」といいます。私たちはナースセンター職員として実際にお話をして、「この人は今どの段階かな」という視点でアドバイスをします。ナースセンター、巡回就職相談会をご利用ください。
猪越 ぜひ、ナースセンターを利用してください。就業への次のステップが見えてくると思います。再就業支援研修は「受けたらすぐ働かなければいけない」というものではありません。まずは研修でいろいろな人の体験を聞くことに意義があります。
佐藤 ブランクのある方は、ぜひ研修への参加を検討してください。申し込むまでは不安だと思いますが、看護職の皆さんは再就職をしようとする同じ立場の者同士で話をしているうちに打ち解け、仲良くなっていきます。
相談員は皆経験豊富ですので、何かしら力になれると思います。私個人は「看護の楽しさ」を伝えるのがポリシーです。いつも相談者に「いい看護をしてほしい」と願っています。

福島県ナースセンター
〒963-8871 福島県郡山市本町一丁目20-24
TEL 024-934-0500
https://www.fna.or.jp/?page_id=85
●センターの主な業務内容
1. ナースバンク事業(来所を勧め顔の見える関係づくりに努めている)
2.
届出制度に関する事業(登録者にナースセンターだよりとナースセンターのリーフレットを送付している)
(福島県内の病院から、毎月の離職者数と届出登録数の報告を受け集計している)
3.
求人開拓・マッチング事業(県内6カ所のハローワークで実施、施設訪問は昨年度30件である)
4.
看護職の再就業支援研修(3日コースで年3回開催している)
5. ナースセンターだより発行(年3回)
6. 就業動向調査
●センターで今一番注力している事業
・マッチング事業(巡回就職相談会)
・看護職の再就業支援研修
・届出登録者の中で、ナースセンターへの登録を希望した方へ電話連絡をして、本登録後支援している。
●今後行いたい取り組み
・届出登録者へ電話のみならず更なる支援策を検討し実施
・ナースセンター紹介就職者のフォロー
・ナースセンターの知名度を上げる活動
●離職者へのメッセージ
離職して間もない方、看護職を離れて長い間ブランクのある方、皆さんそれぞれだと思います。またライフスタイルも個々異なり、様々な事情がおありだと思いますが、「働いてみようかなあ」と考えて迷いや不安がある時には、是非ナースセンターへお越しください。看護職としての自分の方向性を一緒に思い描いて見ませんか。社会はあなたの看護の力を必要としています。
●ナースセンターから一言
東日本大震災以降、福島県では多くの人口流出がありました。震災後5年が経過しましたが、未だに帰宅困難地域もあり深刻な看護師不足が続いています。福島県ナースセンターは、震災3カ月後の6月から福島県の委託を受け、「避難所等看護職巡回相談事業」を立ち上げました。平成24年からは、新たに「看護師等求人開拓・マッチング事業」として県からの委託を受け現在も展開中です。平成26年には「ナースセンター・ハローワーク連携モデル事業」に取組み、震災後から「巡回就職相談会」を5年間積み重ね現在に至っています。


