石川県ナースセンターでは「就業促進事業」「看護のこころ普及事業」「訪問看護事業」「働き続けるための職場環境づくり」という4つの取り組みを軸に広く県内の看護職を応援、また届出制度を利用した看護職の就業率は全国平均の約2倍に達しています。看護職を的確に就業へと導くための取り組みについて、石川県看護協会会長の吉野幸枝さんと、ナースセンター担当の高城厚子さんにうかがいました。

石川県ではナースセンターによる就業促進事業が大きな成果を挙げていると聞きました。

石川県看護協会会長の吉野幸枝さんは「介護施設や訪問看護ステーションなどで働く可能性に目を向けてほしい」と話す

吉野 石川県における「とどけるん」の届出者はこれまで937人、そのうちeナースセンターへの登録者は442人です。そこから実際に就業に結び付いたのは149人で、eナースセンター登録者のおよそ3割。これは、全国平均の約2倍の数値です(2015年10月~2017年1月)。こうした実績の背景には、まず相談件数の多さがあると思います。2016年4月から12月の間だけを取っても1万件を超える相談が寄せられ、その一つひとつに真心を込めて対応した結果だと思っています。特に最近増えているのが電子メールによる相談で、単純に職場を探したいという相談のほか、長文の人生相談のような内容が寄せられることもあります。

高城 離職者のニーズに沿ったテーマを全9回で学ぶことのできる、再就業支援セミナーも好評です。感染管理や注射・採血の実技といった看護職にとって欠かせないテーマはもちろん、トランスファーやエンゼルケア、年度によってはプレゼンテーションや表計算ソフトの使い方を学ぶパソコン講座も含まれていて、IT化した医療現場に対応することも意識しています。
 このセミナーは、離職者はもちろんのこと、中小のクリニックなどに就業中の方が参加することも多く、現役看護職の再教育という機能も兼ね備えています。さらに、セミナー会場を県内の医療施設で担っていただくことにより、医療施設にとっても講師を担う中堅看護職のスキルアップの効果があったそうです。私たちもそこまで計算していたわけではないのですが、医療施設とwin-winの協力関係を築くことにつながったのはうれしい誤算でしたね。

看護職への支援に関して、石川県ならではの特徴はありますか。

吉野 石川県は縦に細長い形で面積も広いため、県庁所在地・金沢市に位置する当センターだけで県内すべての求職者のニーズに対応するのは難しいです。そこで、県内9カ所のハローワークとの連携を重視。北は能登・輪島から南は加賀まで、各地域の求職者が身近に相談できる場として機能しています。各所の相談件数に応じて隔月1回~月2回のペースで看護職の就業支援相談を実施しており、当センターの経験豊富な相談員が出張して個別相談に応じています。また、相談日が近付いたら、その地域の登録者にメールでお知らせして、少しでも多くの人に利用してもらえるよう工夫しています。ハローワーク職員の皆さんも協力的で、求職者が看護職だと分かると「この日に来れば看護職の相談会がありますよ」などとアナウンスしてくれたり、ナースセンターのことを紹介してくれたりしています。実際、ハローワークから紹介を受けて当センターに来所する人は、全体の3割近くに上ります。

高城 県が外部委託して実施する体験研修にナースセンターが連携していることも特徴的かもしれませんね。これは県内の医療施設や社会福祉施設などで、求職者が7~14日間(1日4時間以上)の体験研修を行うもので、研修生には県から1日当たり5000円の給付金が出ます。「再就業の前に少しだけ現場を経験しておきたい」という看護職が数多く参加、実に受講者の87.2%が就業に至るという成果を挙げています。誰にどの体験研修をマッチングすればよいかという点に当センターが関与して、必要に応じて求職者に体験研修を紹介しているわけです。
 就業を考えている方の相談にじっくりと応じたうえで「スキルに不安があるAさんは再就業支援セミナー」「介護施設に初挑戦するBさんは体験研修」「希望条件が明確なCさんは病院見学」というように、経験豊富な相談員が個々のニーズや状況に応じて適切なメニューを見極めるステップが欠かせません。

届出者への積極的な支援や、施設との連携にも力を入れているそうですね。

「私たちがきちんと情報を把握することが第一歩です」と話すナースセンター担当の高城(たき)厚子さん

高城 当センターで重視しているのは、切れ目のない支援です。そのためには、届出制度を周知して登録してもらい、私たちがきちんと情報を把握することが第一歩となります。そこで届出制度が始まった2015年10月に先駆けて、先行期間だった同年2月からオリジナルのパンフレットを作成し、約1800の施設に配布しました。その効果もあってか、登録可能となった同年4月には371人もの登録者があり、その後も増え続けて2016年度には937人(登録解除した人数を除く)となりました。この過程で感じたのは、いくら多くのパンフレットを刷っても、ただばら撒くだけでは効果が薄いということですね。各施設の管理者を中心に、制度の重要性やメリットについて顔を見ながらお話しすることが肝要です。

吉野 届出者に対しては、就職情報交換会や研修会のお知らせなどを電子メールや郵便で定期的に送っているほか、必要に応じて個別に連絡することもあります。ただ、頻繁な連絡を望まない人も当然いるので、一方的にごり押しするのではなく、相手が何を求めているのかくみ取りながら支援していくことが大切だと考えています。また、石川県医療対策課のLINE公式アカウント(@ishikawa_nurse)があり、そこでナースセンター事業の案内もお送りしています。さらに、公民館や図書館といった公共機関のみならず、ショッピングモールなどでも届出制度やナースセンター事業についてのチラシを設置しています。まだ私たちが接点を持てていない潜在看護職に出会うために、多くの人目に触れる場でアピールすることを心がけています。

石川県で再就業を目指す看護職の皆さんにメッセージをお願いします。

高城 2016年4月~12月の実績を見ると、全部で4841人分の看護職求人数(550施設)のうち、介護福祉系が1852人分(183施設)と高い割合を占めています。施設数そのものが増加し続けていることもあり、これからも介護福祉系の求人数が増えていくことは間違いないでしょう。ただ、これらの施設が看護職にどのような役割を求めているのかについては、ばらつきもあるのが現状です。また看護職の側も、介護福祉に関する知識を持っている人はとても少ないです。当センターとしては、就業後にミスマッチが起こらないよう、施設から具体的な情報を集めたうえで求職者に提供し、事前に必ず見学や体験に行ってもらえるよう配慮しています。

吉野 2025年問題が迫りつつある中、地域医療は本当に危機的な状況になっています。今は病院に勤める看護職であっても、将来的には介護施設や訪問看護ステーションなどで働くことがあるかもしれない。その可能性に目を向けてほしいですね。看護職が知識や技術を生かして地域医療に貢献すれば、どれだけ多くの患者さんが救われるだろうかと思います。
 今後は、訪問看護の研修や再就業支援セミナーなどのさらなる充実に力を入れていきたいと思っています。また、広報活動を継続することで届出制度やナースセンターのことをもっと知ってもらい、皆さんの力になれることを願っています。
 当センターでは、求職者はもちろん、無事に就職した人からも引き続き相談を受けることが少なくありません。ついつい隣の芝生は青く見えがちで、自分を取り巻く環境を冷静に見極めるのは難しいもの。だからこそ、看護職としてのベテランというだけでなく医療福祉業界を広い視野で見ている相談員の支援を受けながら、自身にとってベストの選択をしてほしいと思っています。

石川県ナースセンター

〒920-0931 金沢市兼六元町3-69
TEL 076-225-7771
http://www.nr-kr.or.jp/nursecenter/nursecenter01.html


●センターの主な事業内容
(1)就業促進事業
・看護職等無料職業紹介・就業相談
・ハローワークでの看護職の就業支援相談
・看護職と看護学生のための就職情報交換会
・再就業支援セミナー
・石川県看護師等再就業支援研修の利用促進
・届出制度からeナースセンターを利用した切れ目のない支援と広報
(2)看護のこころ普及事業推進
(3)訪問看護推進事業
・訪問看護スキルアップ研修6項目(11研修)
・医療機関看護師の在宅支援スキルアップ研修2項目(2研修)
・経営アドバイザー派遣事業フォローアップ(1研修)
(4)働き続けるための職場環境つくり
・WLB推進公開講座、ワークショップ開催
・働きやすい職場環境つくりアドバイザーの派遣
・石川県看護職勤務環境改善支援事業報告会

●センターで今一番注力している事業
○ナースセンター事業の充実
・届出制度に伴う離職者の状況把握、離職届出制度の広報
・ナースバンクにおける就業斡旋の強化(ハローワークとの情報共有などによる連携強化、ハローワークへの出張による就業相談、就業相談者への広報→石川県直営のLINE@アカウントによる広報)
・未就業看護師のニーズに応じた支援の充実(体験研修の利用促進、復職支援セミナーの開催)
・医療機関などの勤務環境改善支援

●今後行いたい取り組み
(1)求職者と求人施設のマッチング率の向上
(2)eナースセンターに登録のある福祉施設の訪問(看護職の業務や福利厚生、利用者の様子や働きやすさなどを確認)および未登録福祉施設訪問による求人開拓
(3)再就業支援セミナーの充実
(4)ナースセンターの広報(eナースセンターの利用、「とどけるん」からの就業支援、その他研修など)
(5)ナースセンターからの就職者のフォロー
(6)訪問看護研修の充実
(7)看護のこころ普及促進(高校生へ看護をアピール)
(8)医療勤務環境改善支援事業の中小施設への参加促進

●離職者へのメッセージ
・届出を実施された方には、手厚い相談を実施しています。どんなことでも遠慮なくご相談ください。県下9カ所すべてのハローワークで就業相談を実施しております。加賀地区・能登地区など遠方の離職者にも、切れ目のない支援を実施しています。特にeナースセンター登録を希望された方には、メールで多数の情報提供支援と精神面のフォローを行いつつ、その方のご希望とライフスタイルに合った施設を紹介しています。
・離職中でも勉強したい方への再就業支援セミナーのお知らせ、訪問看護を学びたい方への研修予定の広報(石川県看護協会ホームページ)、看護学生への情報提供と相談(看護職のための就職情報交換会参加者のフォロー)、ブランクがあって就業が不安な方への再就業支援研修の利用勧奨など、様々な支援を看護管理の経験者が行っております。遠慮なくご利用ください。

●その他のアピールポイント
 石川県ナースセンターは様々な方から利用されており、離職者の届出数も増加しています。何より届出登録からeナースセンターを希望した方の約3割が就業に至っており、全国平均の2倍となっております。皆様に親しまれるナースセンターを目指して、届出から就業まで切れ目のない支援を行ってまいります。

LINE石川県医療対策課公式アカウント(@ishikawa_nurse)の画面

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