「かんたき」(看護小規模多機能型居宅介護:看多機)という言葉を聞いたことがあっても、それがどんなところかを知っている人はまだまだ少ないのが現状です。一言で言えば通所・宿泊・訪問介護に訪問看護の機能が加わったのが看多機。ここで看護職はどのように活躍しているのでしょうか。株式会社リープの代表取締役として「わいは」(東京都新宿区)を開設した細谷恵子さんと、開設当初から「わいは」で働く看護師の冨田弘子さんにお話を伺いました。

 医療依存度や要介護度が高い高齢者を支えるためには、看護の力が重要です。しかし訪問看護や訪問介護のサービスだけでは、一日の限られた時間を「点」で支えるのが精一杯。時には、看護・介護の専門職の目の行き届くところで「通い」や「泊まり」ができ、さらに、療養上の不安や疑問を看護職に気軽に相談できるサービスが、在宅療養には必要です。

看護小規模多機能型居宅介護 わいは
東京都新宿区上落合1-23-19
http://www.leap-kango.com/waiha.html

 看護小規模多機能型居宅介護(看多機)では、個々に違う介護の困りごとに目を向け、地域の利用者の状態に合わせて、「通い」「泊り」「訪問看護」「訪問介護」という4つのサービスを組み合わせて24時間提供する療養支援を担っています。利用者と家族は慣れ親しんだ信頼のおけるスタッフから、いつでも看護と介護のサービスを受けることができるのです。

 2014年に「わいは」を開設した細谷恵子さんは、施設への「通い」を中心に短期間の「泊まり」や自宅への「訪問介護」を組み合わせた看多機の前身となる小規模多機能型居宅介護が2005年にできた時から、「看護もこの仕組みに加わり、多職種で一体的に利用者を支えたい」と強く感じていたといいます。小規模多機能型居宅介護が担うサービスには“看護”が入っていなかったのです。その後、訪問看護で看取りを支援したご家族が、一軒家を取り壊して集合住宅にするという話がきっかけとなり、細谷さんはその場所を利用させてもらい、自身で看多機を開設することとなりました。離れて暮らす家主のご家族の意向から3階建てに立て替え、1・2階が「わいは」の事業所、3階が家主である元利用者の妻の自宅となりました。

 「わいは」の総定員は23人(通い12人、泊り4人)で、もともと細谷さんが運営していた系列の訪問看護ステーションと連携しながら、地域の利用者を力強く支えています。利用者の平均要介護度は4.4と高く、通常のデイサービスなどには通うことのできない方も少なくありません。看護の力と介護の力が組み合わさった看多機だからこそ、医療依存度が高く状態が不安定な利用者を受け止めることができるのです。

 「わいは」の看護職員は訪問看護ステーションとの兼務で、訪問看護の業務が中心になります。勤務時間は9時から18時で、訪問看護で担当している方が「わいは」に通ったり泊まったりすることを考慮して、「わいは」での勤務を入れたシフトを組んでいます。また、「わいは」専任として非常勤の看護職員が1人います。夜勤は介護職が担当しています。

 通いは要介護度により利用日を分けています。1日の利用者数は、QOLが良好な方だけの日は7~8名、週に1、2回設定している要介護度が高い利用者の日は3~4名です。ケアの中心となるのは常駐している介護職ですが、出来るだけ看護職と一緒にケアを行うようにしています。異常を判断するための手立てなど、看護の視点を介護職に伝えることも、看護職の大きな役割です。

 「看多機は利用者に医学的ケアをするためだけにあるのではなく、その方の生活全体像を把握した上で必要な支援を行うためにあるのだと考えています。訪問看護だけでは見られない姿を知ることができ、在宅の限界を高めることができるのです」と細谷さんは話します。

在宅医療における「究極のサービス」を地域に提供していきます
 株式会社リープ代表取締役、看護師、介護支援専門員 細谷恵子さん

 「看多機は“第二のわが家”だからこそ、地域になじむ一軒家で」という思いが強かったので、元利用者のご家族が建物の利用を快諾してくださったときはうれしかったですね。ただ、築64年の木造住宅だったこともあり、もともとあったお家をそのまま使うことはかないませんでした。自分のイメージを建築士に伝えるのに苦労しましたが、立て替えで自分でも暮らしたいと思えるような素敵な建物に仕上がったと感じています。「まるで実家みたいで落ち着くわ」と言ってくださる方も多いですよ。また、地域においてのシンボル的な存在になれたらと思い、2つの丸いステンドグラスにもこだわりました。

 「わいは」を利用されているのは、要介護度4~5の方が中心です。脳出血や脳梗塞などの後遺症がある方や、パーキンソン病や認知症など難しい病気を抱えている方が少なくありません。移動するのが負担になる場合は、週1~2回程度と無理のない範囲で利用される方が多いですね。もう少し動ける方たちは、曜日を固定して通ってもらい、日中にレクリエーションなどを楽しんでいます。

 通いは9:30~16:30、泊りは16:30~翌9:30と、利用時間を区分けしながらも、個々の利用者状況に柔軟な対応を可能としているのも看多機の特徴の一つです。スポットで支援する訪問看護と比べて、生活パターンを理解した上での看護が提供しやすいと思います。通いを利用して「わいは」で週2回でも排泄コントロールを受ければ、自宅でのおむつ交換の回数はぐっと減ります。胃瘻や経鼻経管を外し、口から食べられるようになった方も少なくありません。長時間の滞在だからこそ、利用者の要介護度を下げたり、ご家族の負担を減らしたりするような支援も実現しやすいのだと思います。ずっと通い続けるというのではなく、自立度を高めて元の生活に戻していくことを意識しています。

 一方で、泊まりのサービスを使う方はそれほど多くありません。発熱や痰の量の増加など、体調の悪化を看護職が察知したときには、通いから自宅に戻さず、回復するまで泊まりに移行することもありますが、環境が変わることが負担になるケースもあるため慎重に判断しています。

 本人がどのように最後を迎えたいのか、その気持ちに寄り添い全うすることを、多職種が一体となって支援するのが看多機だと思います。通いを利用し、通う負担が大きくなったら訪問中心に切り替え、最後の時は家族の要望を聞きながら泊まりを利用する。これまで10人を看取りましたが、看取りの際には2つの居室の壁を取り払い、利用者とご家族が一緒に宿泊できる環境も整っています。

学生などの研修も積極的に受け入れているそうですね。

 看護学生の受け入れのほか、介護職の研修先としても使ってもらっています。多くの看護学生は訪問看護のイメージを持ってここに来ますが、それとはまた違った利用者の姿を目にして刺激を受けているようです。また気管切開や胃瘻への対処などの医療処置もここでは比較的多いので、例えば胃瘻への注入など1日いれば何度も経験できますから、それに伴う技術や看護の視点が身に付きます。

 介護職の方も、看護職と密に関わりながらケアを実践できるので、スキルアップの喜びを感じるようです。1人の利用者に対して2~3人の職員が関わる環境は、他の形態の施設ではなかなか得られないものだと思います。看護職にとっては生活支援の視点が、介護職にとっては医療の視点が身に付き、お互いに成長できる職場ではないでしょうか。

看多機で働くことについて、看護職にメッセージをお願いします。

 医療処置の技術的なレベルが高くても、看多機で素晴らしい看護を実現できるとは限りません。生活への視点や介護職との連携といった部分を意識し、柔軟に対応できるキャパシティーのある方が向いていると思います。訪問看護の経験がベースにある方が、さらなるステップアップとして看多機に移るというケースが多いと思いますが、新卒などまったくの未経験者でも、看多機からスタートして十分に経験を積み、それから訪問看護に携わるという道もあると思います。

 4つのサービスを総合的に提供できる看多機は、在宅医療の限界を広げることができると信じています。在宅医療における「究極のサービス」を提供できる存在として、これからも地域の利用者に寄り添い続けたいです。

利用者を「面」で支える看多機だからこそのやりがいを見つけました
 看護師 冨田弘子さん

 私はもともと病院の病棟や外来を中心に働いていたのですが、2000年に介護保険制度が始まったときに訪問看護の部署へ配属されたことがきっかけとなり、本格的に地域医療に携わることになりました。そこで出会ったのが細谷さんです。その後、新たに訪問看護ステーションを立ち上げるときも、看多機を開設するときもずっと一緒で、18年間にわたり地域医療に関わってきました。現在は、目白(東京都豊島区)にある系列の訪問看護ステーションと「わいは」を兼務して働いています。

 看多機では、利用者の生活リズムを把握し、それに合わせて最適のタイミングでケアを提供することが肝心です。例えば、食事前に排便コントロールを行ったり、中心静脈カテーテルが入っている方には入浴後すぐに刺入部を消毒したりといったことですね。どこで看護職が必要とされるかを考え、特に医療処置を行うような場面に入っていくわけです。また、利用者に長時間寄り添っている介護職から細かく情報を収集して必要な処置を判断したり、どのような視点で観察すべきかを介護職に伝えたりするのも看護職の役割です。

 ただ、「看護職は医療処置にだけ関わればいい」という考え方だと、「看多機ではやることが何もない」という感覚になってしまうと思います。訪問看護と違って、看多機は1人の利用者と関わる時間がとても長いです。だからこそ、その人の生活の全体像を把握し、介護職と連携しながら必要な支援を見出していく姿勢が欠かせません。例えば、声かけをしたときの反応から普段との違いに気付くといった、基本的だけれど重要なことを怠ってはいけないし、そういったことにやりがいや面白さを見出せる人に向いている職場だと思います。

 私が看多機で働くようになって気付いたのは、利用者が見せる顔は、場所や時間によって様々に変化するということ。そして、そのどれもが本当の「その人」なんですよね。「点」で支える訪問看護に対して、看多機では利用者を「面」で支援していきます。生活に根差した看護を経験することで、私自身も大きく成長できたと感じています。

「わいは」スタッフの1日(株式会社リープのwebサイトより)
http://www.leap-kango.com/staff1day.html

看護小規模多機能型居宅介護(看多機)とはどんなもの?

 「自宅で、住み慣れた地域で、最後まで暮らし続けたい」。これは多くの人の願いでしょう。一人暮らしや高齢者だけの世帯が増えていく中、家族の介護力が弱くても、医療・介護サービスを利用して在宅で暮らせるような環境づくりが、今、課題となっています。

 2005年に、施設への「通い」を中心に短期間の「宿泊」や自宅への「訪問」を組み合わせた、看多機の前身となる小規模多機能型居宅介護が創設されました。しかし訪問看護はこの中に含まれてはおらず、別の事業者から提供を受ける必要がありました。日本看護協会は小規模多機能型居宅介護と訪問看護を一体的に提供できるようなサービスの創設を2010年に要望し、2012年に、訪問看護と小規模多機能型居宅介護を組み合わせた「複合型サービス」が創設されました。そして2017年には提供しているサービスがイメージしにくいという理由から「看護小規模多機能型居宅介護」(看多機)と名前が変わり、現在に至っています。
http://www.nurse.or.jp/nursing/zaitaku/shokibo/pdf/keii.pdf

 厚生労働省によれば、「看護小規模多機能型居宅介護」とは、下記のようなニーズのある方々を支援するために創設された新しいサービスです。
・退院直後の在宅生活へのスムーズな移行
・がん末期等の看取り期、病状不安定期における在宅生活の継続
・家族に対するレスパイトケア(休息を取れるようにする支援)、相談対応による負担軽減
 2017年3月末時点で、全国に357の看多機の事業所があります(厚生労働省老人保健課調べ)。

日本看護協会のwebサイトより(http://www.nurse.or.jp/nursing/zaitaku/shokibo/index.html

 それでは実際に、どのような方が看多機を利用しているのでしょうか。厚生労働省の「看護小規模多機能型居宅介護のサービス提供の在り方に関する調査研究事業」報告書から見てみましょう。これは2015年10月に行った調査で、157事業所からの回答結果です。

・登録者の年齢:「85 歳~89 歳」26.5%、「80 歳~84 歳」21.4%。平均は84.0 歳。
・性別:「男性」30.1%、「女性」69.6%。
・世帯構成:「独居」36.5%、「夫婦のみ世帯」17.0%、「その他同居」45.4%。
・直近の要介護度:「要介護1」15.7%、「要介護2」20.3%、「要介護3」20.8%、「要介護4」20.3%、「要介護5」21.3%。「要介護3以上」が合わせて62.4%。
・傷病:「認知症」(57.6%)、「高血圧」(37.3%)、「脳卒中」(28.7%)、「筋骨格系の病気」(20.6%)など(複数回答)。
・ 医学的ケア等の実施状況:「服薬管理」73.9%、「リハビリテーション」18.4%、「摘便」12.1%、「浣腸」11.7%、「胃ろう、腸ろうによる栄養管理」6.7%、「たんの吸引」6.4%、「疼痛の看護」5.6%、「カテーテル」5.5%など(複数回答)。

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