神戸市の県庁前駅からほど近くに所在する兵庫県ナースセンターでは、数多くの相談事業や研修事業を通して幅広い世代の看護職を支援しています。兵庫県看護協会常務理事の森和美さんと、ナースセンター部部長の香川むつみさんに、兵庫県におけるナースセンターの取り組みと今後の展望についてお話をうかがいました。
看護職のニーズに応じた様々な相談事業とは、具体的にどのようなものでしょうか。
香川 看護職の就業支援でまず重要なのは、できる限り離職しないようにサポートすることです。様々なメニューを用意することで辞める前に当センターに相談してもらい看護職の定着を図りたいと考えています。

「看護なんでも相談」は、看護職の就業や進学、労働環境に関することを中心に、幅広い相談に応じるものです。職場における人間関係やハラスメントに関する悩みも多いですね。ナースセンター本所ではもちろん、県内6カ所にある支所・サテライトにおいても行っています。
次に、心理専門の担当者が個室で相談に乗る「メンタルヘルス相談」。予約制ということもあり、1時間以上かけてじっくりと話をすることができます。本格的なカウンセリングが必要だと判断した場合は、専門医を紹介することもあります。看護管理者や認定看護師教育課程に進んでいる看護職などの利用も多く、その精神的負担の重さが分かります。
「医療安全相談」では、当センターが窓口となって兵庫県看護協会教育研修部の医療安全担当と相談者をつないでいます。医療安全に関わる問題について、職場では話しづらいこともあるでしょうから、不安があれば当センターに相談できることを知っておいて下さい。
森 再就業希望者については、神戸、西宮、姫路、加古川の4カ所のハローワークとの連携事業として巡回相談を行っています。「看護なんでも相談」の相談員が定期的に月に1~3回ほど各ハローワークに赴き、各地域の求人施設、求職者の相談に応じます。兵庫県のハローワークは、こうした連携事業にとても協力的なのでありがたいです。
ナースセンターに登録している求職者に対しては、どのような支援を行っていますか。
香川 ナースセンターには幅広い年齢層の求職者が登録していますが、ブランクの長い40~50歳代の割合が特に多いです。そのような方には、単に再就職の相談に応じるというだけでなく、研修で知識や技術を再確認することをお勧めしています。
当センターでは、看護基礎技術研修とBLS(一次救命処置)研修を毎週水曜日に実施しています。看護基礎技術研修は、講義に加えて、採血や注射、吸引といった技術を、演習を通して磨いていきます。BLS研修では、最新のJRC蘇生ガイドライン2015に基づいた講義と演習を行っています。いずれも各回の定員は5人ですが、クチコミなどで評判が広がり、常に予約がいっぱいという状態です。受講者の中には中小規模の医療施設や福祉施設に勤めている看護職もいて、上司に勧められて技術を確認するために受講するケースも多いようです。
森 さらに学びたいという方のためには、再就業支援研修会があります。毎年2月と9月の開催で、5日間かけて最新の看護の動向を学び、再就業に必要な知識、基礎的な看護技術をブラッシュアップするものです。会場は基本的に兵庫県看護協会内の研修室ですが、1日だけ武庫川女子大学(西宮市)にお邪魔して、最新のシミュレーターを使ってフィジカルアセスメントを学ぶことができます。この研修の受講者の平均年齢は40歳代、平均ブランク年数は10年程度ですが、受講後の再就職率はかなり高いというのが実感です。実際、2016年9月の受講者は22人中8人が再就職していきました。
また、県内の病院・施設が独自に実施している再就職支援研修に関して情報を収集し、ホームページに掲載しています。
再就職に関する「生の情報」を提供したい
より若い世代に対しては、どんな支援が必要とされているのでしょうか。

森 子育て世代に当たる20~30歳代はブランクの年数は少ないものの、再就職に関する「生の情報」が不足している傾向にあります。そこでその年代にターゲットを絞り、2016年12月から託児付きの交流会(カフェ)を開いています。
初回の参加者は、20歳代が2人、30歳代が5人。当センターで研修を受けて再就職を果たした「先輩」を招いて、再就職のためにはどんな準備が必要かといった体験談を話してもらいました。お茶を飲みながら気軽に話し合える雰囲気を心がけたのがよかったのか、時間がオーバーしそうなくらい皆さん熱心に意見交換されていたのが印象的でしたね。独りで思い悩むのではなく、同じような悩みを抱える人と共感し合いながら思いを表出することが突破口になることも多いのです。交流会の後に参加者同士が連絡先を交換している姿も見られ、仲間を作る場としても機能していることを実感しました。
香川 子育て世代に足を運んでもらうためには託児が大切だということで、交流会の会場の向かいにある部屋を託児室とし、神戸市シルバー人材センター「神戸市託児サービス」に委託してお子さんを見ていてもらうようにしました。初回には8人のお子さんを預かり、一番小さな子は9か月ほどでした。安全に配慮した走り回れるほど広い部屋を用意し、無添加のお茶やお菓子も準備しました。保育の環境をきちんと整えたことで、お母さん方は安心して交流会に臨めたと思います。
神戸市にある本所のほかにも、6カ所に支所やサテライトがあります。
香川 兵庫県は南北にやや長く面積もかなり広いため、姫路支所、西宮支所、宝塚支所、サテライト明石、サテライト北播、サテライト但馬を置いて、どの地域の方でも気軽に相談できる環境を整えました。支所は本所と同じように求職・求人のマッチングも可能な事業所で、サテライトは主に相談機能を担っています。サテライトは週に2日ほど開所しており、各地域の事情に詳しいセカンドキャリアの看護職経験者が相談に乗っています。
森 現在は平日のみですが、今後は休日にも開所することで、より相談しやすい環境を整えたいと考えています。「休日なら子どもをお父さんに預けて相談に行ける」という人も多いと思いますから。まずは、商業施設内に設置されている姫路支所とサテライト北播から、土曜日開所を実現していく予定です。
最後に、求職者の方々へメッセージをお願いします。

森 看護管理者を経験したベテラン相談員が相談に乗るとともに、無料で様々な研修を受けられるセンターですから、再就職のためにどんどん活用してもらいたいですね。そのためには、まずナースセンターという存在そのものを知ってもらうことが大切だと考え、広報活動にもかなり力を入れています。例えば、市町の広報紙に広告を出すのはもちろん、ラッピングバスを走らせたり、駅構内に電照広告を設けたりしています。「県民だより」や「兵庫ジャーナル」にもお知らせを掲載していますので、チェックしてみて下さい。また、ゆるキャラ「のじぎくちゃん」が看護の日などのイベントに登場したり、オリジナルグッズを作成したりもしているんですよ。
香川 各世代にマッチした支援が当ナースセンターの強みです。世代ごとに置かれた状況や抱える悩みが異なるため、それぞれに応じて効果的な支援をすることが再就職への近道だと考えています。仕事を辞めたいと悩んだとき、実際に退職したとき、再び働きたいと思ったときなど、看護職の皆さんが人生の岐路に立ったとき、当センターのことを思い出してもらえたらうれしいですね。

兵庫県ナースセンター
〒650-0011 兵庫県神戸市中央区下山手通5-6-24
兵庫県看護協会会館1階
TEL 078-341-0240
FAX 078-341-0340
https://www.hna.or.jp/outline/n_access/
●センターの主な業務内容
(1)ナースバンク事業(看護師等無料職業紹介事業)
(2)看護職のための相談事業
・看護なんでも相談
・メンタルヘルス相談
(3)看護職復職支援事業
・再就業支援研修会
・看護基礎技術研修
・BLS研修
・その他の再就業支援に関する研修などの情報提供
・合同就職説明会
・再就業支援のための交流会(カフェ)の開催
・相談事業の強化
(4)看護の心普及事業
・看護の日イベント
・ふれあい看護体験
・看護の出前授業、ナースの訪問事業
・進学説明会、進路担当者への説明会
(5)訪問看護支援事業
・日本訪問看護財団を通し、eラーニングを活用した訪問看護師養成講習会
(6)ワークライフバランス推進事業
・ワークライフバランス推進ワークショップおよびフォローアップ・ワークショップの開催
・看護職のWLBインデックス調査への費用助成(200床以下の施設対象)
(7)看護職等免許保持者の届出制度の推進
(8)ナースセンター周知のための広報活動
●センターで今一番注力している事業
(1)再就業支援に関する事業
(2)支所・サテライトの効果的な運用
(3)求人・求職登録の増加対策
●今後行いたい取り組み
(1)再就職希望者に向けて、支所・サテライトにおける相談機能の強化と交流会の開催
(2)求人施設の訪問(求人登録の増加を図る)
●離職者へのメッセージ
再就職に関する情報を月1回提供していますので、研修会、合同就職説明会、相談会などに参加していただき、再就職につなげてほしいと考えています。
●ナースセンターから一言
再就職を目指している方、看護師を目指している方へ真摯に向き合い、より良い方向に進めるよう支援しています。看護部長や副看護部長、看護教員を務めた経験豊富な相談員がお待ちしています。




