高知県ナースセンターでは離職した看護職の再就職支援はもちろんのこと、将来の看護職の育成にも力を入れており、看護という仕事の魅力を県内の子どもたちに伝え続けています。看護職不足という状況下でナースセンターが果たす役割について、高知県看護協会会長の宮井千惠さん、常任理事の藤原房子さん、高知県ナースセンターの濵田三千代さんにお話を伺いました。

求職者と求人施設のマッチングの際にはどのようなことを心がけていますか。

濵田 相談に訪れた方にまず尋ねるのが、「何のために働きたいですか?」ということです。生活するために収入が必要だから働くのか、自分のやりがいのために働くのか、社会貢献を重視して働くのか…。目的やモチベーションに応じて、その方に合う職場や働き方も変わってきます。
 また、求人施設はどうしても「すぐに戦力になる人」を期待してしまいますが、求職者はそこまで条件の整った方ばかりではありません。長い目で見て育ててもらえるよう、求職者と求人施設の「温度差」をできるだけ解消するように関わることが、再就職後も辞めずに勤め続けてもらうことにつながると考えています。

常任理事の藤原房子さんは「求人票に載らないような細かい情報こそがマッチングの際には重要です」と言う

藤原 2016年度には病院や介護施設など県内の92施設を訪問しました。施設訪問では当センターが行っている事業や届出制度について周知すると同時に、各施設がどのような状況の下、どのような人材を求めているのかを伺っています。求人票に載らないような細かい情報こそが、マッチングの際には重要になってくることも多いですから。多くの施設を訪問するうちに当センターの存在も少しずつ浸透し、認知度が上がってきた実感があります。顔が見える関係を築いたことで、「何かあったら相談してみよう」という感覚を各施設が持ってくれるようになりました。

宮井 当センターが県内130病院の協力を得て行った調査によると、2016年度に退職した553人の看護職のうち、30歳代と40歳代がそれぞれ25%ほどを占め最多であることが分かりました。実際、当センターでの就業相談や連携している高知と安芸のハローワークでの移動就業相談でも、30~40歳代の方から転職や再就職の相談を受けることが多いですね。
 この年代は、出産・育児などのライフイベントが多いのもさることながら、ちょうどキャリアアップを考えるタイミングでもあります。新卒で入った職場で経験を積んで自信が付いてきたときに、子どもの教育費などがかかってくるようにもなって、「もっと給与面で評価される職場に挑戦したい」と行動を起こすわけです。ただし、転職しても必ずしも給与が上がるわけではなく、いったんは下がってしまう場合も多く見られます。ですから、今の職場を勢いで辞めるのではなく、まずは現実を知って冷静になって、本当に職場を移りたいのか考えてもらうよう情報提供した上で、その方にとっての最善の職場を一緒に探っていくようにしています。

再就職を目指す看護職のためにはどのような研修が用意されているのでしょうか。

高知県ナースセンターの濵田三千代さんは「退職した看護職を潜在化させないという点も意識しています」と話す

濵田 「復職支援研修」として、看護協会内の研修室で行う講義中心のものと、研修協力施設で行う実技中心のものとの2種類があります。
 看護協会内で行う研修では、2日間で医療安全、急変時対応、感染管理などの知識と技術をブラッシュアップすることができます。最後に参加者同士の意見交換会や就業相談会を開き、研修を通してどんなことを感じたかを振り返り、今後のキャリアについて具体的に考えてもらう機会としています。年に4回、基本的に同じプログラムの内容の研修を開催していますので、分割して勉強したいという方にも柔軟に対応しています。
 この復職支援研修を受けた方の年齢は幅広く、離職期間も最大で約25年ある方もいました。ブランクが長くても本当に働く覚悟が固まっていれば、研修でしっかりと学び直し、再就職できるケースが多いです。

藤原 研修協力施設での研修は、受講者が希望する施設と日程を調整した上で個別に開催するものです。病院だけでなく介護施設や訪問看護ステーションも含む36施設に協力していただいています。高知県では訪問看護師が極めて不足しており、県を挙げて育成に力を入れている現状がありますから、少しでも興味があればチャレンジしてほしいです。研修期間は3日間が基本ですが、受講者の都合によって2日間にしたり、1日の時間を短縮したりといったことにも対応しています。
 また、採血などの技術をピンポイントで再確認したいという方のために、ナースセンター内での事前研修も実施しています。シミュレーターを使って思う存分練習できるので、気軽にお問い合わせください。

若い世代の看護職を育成することにも力を入れているそうですね。

高知県看護協会会長の宮井千惠さんは「看護の道に進もうと考える若者たちの育成が急務です」と話す

宮井 高知県では働いている看護職の平均年齢が高く、若手が育成できていないという悩みを抱えている施設が多くあります。今は再雇用制度を活用してなんとか現場を回すことができても、10年後を考えれば今のままでは運営が厳しい。そうした強い危機感を持って、「長期勤務によるキャリア形成を図る視点から若い看護職を何とか採用したい」と担当者が当センターへ相談に見えることもあります。これから看護の道に進もうと考える若者たちの育成に力を注ぐことは、高知県において急務なのです。

濵田 子どもたちにも看護の魅力を伝えています。
 高知市文化プラザ「かるぽーと」で毎年2日間、子どもたちが運営する仮想の街「とさっ子タウン」というイベントが行われています。とさっ子タウンは小学4年生から中学3年生までが“市民”となり、様々な職業体験ができるイベントです。その中で「とさっ子市民病院」を設け職業体験コーナーを展開しています。そこでは、子どもたちが看護職となって健康診断を実施したり、赤ちゃん人形のおむつを交換したりといった体験ができ、受診者となって健康診断を受けることもできます。好きな仕事を選び、仮想通貨“tos”でお給料をもらい、税金を支払ったり買い物をしたりします。
 その他に高知市の大橋通り商店街で毎年11月に開催される「わくわくワークるんだ商店街事業」でも、子ども看護ステーションを開設しています。これも小学4~6年生に仕事を体験してもらうというイベントで、商店街で使えるお給料が出ます。血圧や血中酸素飽和濃度を測定したり、三角巾固定法を学んだりといった経験の中で、まずはお子さんに看護に興味を持ってもらい、保護者には進学ガイドを渡しています。
 将来の職業について家族で考えるとき、看護職という仕事を選択肢に入れてもらえたら…と思っています。

藤原 若い世代に看護の仕事をアピールしていこうという気持ちは、他県と比べても強いかもしれません。その甲斐あってか、高知県行政と高知県ナースセンター、高知県看護協会が5月に開催した「2017こうち看護フェア」には、200人以上が列を成して参加してくれました。これは県内の高校生を対象とした進学相談会のようなもので、看護学校の教員と直接話したり、先輩看護職から現場の話を聞いたりできるほか、看護の仕事に興味を持ってもらえるような体験コーナーも開設しました。また保護者の気持ちをつかむことも大切なので、学費や奨学金などについても詳しく比較検討できるような場としました。

高知県の看護職の皆さんへメッセージをお願いします。

濵田 潜在看護職の再就職支援にはもちろん力を入れています。しかし、ブランクが長ければ長いほど復帰に時間がかかりがちで、大変な思いをする方も少なくありません。私たちは、ブランクが長い方の復職をサポートすると同時に、退職した看護職を「潜在化させない」という点も意識しながら、県内の看護職確保に力を入れていきたいと考えています。

宮井 県内の医療施設の状況をしっかりと把握できているのが、ナースセンターの大きな強みの一つです。求職者と求人施設の本音を受け止めた上で、最適なマッチングを目指してコーディネートさせていただきます。就職登録の前に、試しに求人情報だけ確認したいという方はもちろん、再就職に迷いや不安があるという方も、ぜひナースセンターに気軽にご相談ください。



高知県ナースセンター

〒780-8066 高知県高知市朝倉己825-5
       高知県看護協会内
TEL:088-844-0758
http://kochi-kangokyokai.or.jp/publics/index/34/

●センターの主な事業内容
1.看護職の就業促進事業
・無料職業紹介事業:就業相談・再就業支援(届出登録・相談)
・就業中の看護職の不安や悩み、進学相談
・復職支援研修事業
・ハローワークとの連携事業(移動就業相談会:県内2カ所、年間48回)
・求人施設訪問による情報収集活動
2.看護の心普及事業
・看護の日および看護週間事業、ふれあい看護体験、看護の出前授業等

●センターで今一番注力している事業
・求人・求職者増に向けての取り組み:届出制度周知活動、施設訪問による情報収集と求人施設登録推進

●今後行いたい取り組み
・再就職相談会(求人施設の方々と求職者との面談・相談)
対象:ブランクがあるが復職を希望している方、新たな職場を探したい方、定年後も働き続けたい方、福祉・介護職場、訪問看護ステーション等で働きたい方

●離職者へのメッセージ
高知県ナースセンターは、一人ひとりに合わせた対応を心がけています。次のステップへ進みたいとお考えのとき、ぜひ高知県ナースセンターをご利用ください。一緒に考えましょう、探しましょう、あなたに合った働き方を、職場を。

●その他のアピールポイント
高知県ナースセンターは、求職者の要望にできるだけ対応いたします。
・平日、時間内(9~16時)の来所が難しい方は、相談ください。
・ハローワーク高知(第1・3月曜)、ハローワーク安芸(第1・3水曜)でも就業相談を受けています。それ以外のハローワークでの相談を希望される方は、相談ください。

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