佐賀県ナースセンターでは、県内の医療施設や福祉施設を訪問し、得た情報をマッチングに生かすようにしています。様々な不安を抱えた潜在看護職が自信を持って再就職できるようにするためのサポートについて、佐賀県看護協会常務理事の横田栄子さんとナースセンター担当の森田洋子さんにお話を伺いました。
県内の求人施設へ頻繁に足を運んでいるそうですが、どのような狙いがありますか。
横田 届出制度がスタートした2015年度には、当センターの職員が県内の107病院をすべて訪問し、制度の紹介をしました。続く2016年度には、病院だけでなく福祉施設や訪問看護ステーションなど125施設を訪問。そして2017年度は、200床以下の病院88施設を再訪問するとともに12の看護学校を訪問しています。登録者の人数、離職理由、再就職をめぐるニーズなど求職者の状況を説明すると同時に、求人施設の状況を把握することが主な目的です。

求人票の記載が求職者が求めている条件とずれていると感じるときは、求職者の目にとまりやすくなるような、事実に即しながら「魅力のある」求人票の作り方を提案することもあります。例えば、求職者が不安を抱きがちな技術面のサポートに関して「中途採用者向けの指導体制が整っています」「ブランクを乗り越えて一人前になったプリセプターが指導します」といった一文を加えると、印象が大きく変わることもあります。
森田 2017年度に当センターへ看護職離職時等の届出登録した129人のうち約50人が再就職を希望し、うち30人が実際に再就職を果たしました。よりよいマッチングのためには、求職者から時間をかけてニーズを聞き取り、求人施設のニーズとすり合わせていく過程が欠かせません。私たちが施設訪問を通して収集した中途採用者の教育体制、子育て支援、夜勤体制、メンタルサポート体制などの情報に加え、訪問した職員が感じた職場の雰囲気なども勘案して、求職者一人ひとりに合う職場を探していきます。こうした丁寧できめ細やかなマッチングを実現できるのが一番の強みだと思っています。
ナースセンターへの求職者はどのような職場を希望しているのですか?

森田 求職者の希望条件を把握して就業促進を図る目的で、2016年度に「未就業看護職員調査」を行いました。
それによると、まず離職理由として挙げられたのは、「出産・育児」「身体的理由」「結婚」「医師、上司同僚との関係」「残業が多い」の順でした。身体的理由には、職業病とも言える腰痛や、長年遠方に通勤してきたけれども歳を重ねるにつれて負担が重くなってきた人などがいます。また、結婚や出産・育児のために現場を離れるケースがいまだ少なくないことが分かりました。子育てによるブランクは、5~10年と長めになることが多い印象ですね。
一方、求職者の74%は常勤を希望しており、57%が日勤のみの勤務形態を希望しています。20代では夜勤可能が40%なのですが、30代を過ぎると20~30%となります。希望施設としては、病院、無床診療所、検診センターその他、の順でした。
横田 子どもが大きくなったり自分や両親が歳を取ったりと状況が変化していく中で、それぞれのステージに合った職場を求めるのは当然のことです。私たちは、そうした個々のニーズにマッチした職場を探すお手伝いをしています。例えば、ブランクの長い人には教育体制がしっかりした病院を勧めたり、小さなお子さんがいる方には通勤時間が20分以内の施設を紹介するようにしています。
自信を持って再就職するためには知識や技術のブラッシュアップも欠かせませんね。
森田 ブランクが長ければ長いほど技術面の不安が膨らんでいき、復職のハードルが高くなってしまいます。当センターでは、潜在看護職に現場復帰する自信を取り戻してもらうため、「看護職員復職支援1日研修会」(年4回の定期+随時開催)と「看護職再就業支援研修会」(年2回開催)を用意しています。
看護職員復職支援1日研修会では、患者さんだけでなく自分自身を守るためにも欠かせない医療安全と感染対策についての知識を学んだ後、採血など希望する技術の演習と施設見学を行います。わずか1日でも盛りだくさんで、再就職へ向けた動機作りとして満足できる内容になっていると思います。
横田 6日間の日程で開催する看護職再就業支援研修会では、よりじっくりと知識や技術を習得できるプログラムにしています。4日間の講義と演習では、フィジカルアセスメントや急変時対応など実践的な技術を磨くとともに、視野を広げるため在宅医療や訪問看護についても学びます。2日間の病院実習では、自分が働いていたころと今の現場との違いを目の当たりにして、驚く人も少なくありません。見学施設は5地区に8病院あり、自宅から近いところを選んでいただけます。病院のナースセンターに行って実際に看護師の動きを見ることは大変参考になります。
例えば、昔は手書きだったカルテが電子カルテに変わっていて、自分には使いこなせないのではないかと不安に感じたという受講者は、現場の看護職に「私も最初は戸惑ったけど、絶対に慣れるから大丈夫よ!」と力強く励まされながら扱い方を教えてもらい、ずいぶん安心できたそうです。研修を通して、当初は「自分には無理だ」と感じていた職場に自信を持って再就職していく姿を見送るのは、私たちにとって本当にうれしいことです。受講生の半数は年度内に就業しています。
森田 そうやって一つずつ不安を解消していって、自信を取り戻してもらうことが大切です。研修の最後には交流会と閉講式があり、修了証書をお渡ししています。交流会では、参加者同士で悩みを打ち明け合ったり、実際に研修を経て再就職した方に講師として話していただいたりしています。経験者の話からは「再就職後の自分」をリアルに想像することができるので、とても参考になると好評です。2017年度からは、看護職には様々な働き方があることを受講者にお伝えするために、「さが福祉ナースの会」から講師に来ていただいて福祉施設で働くことの魅力をお話ししてもらっています。
また子育て世代が参加しやすいように、託児サービスを用意しています。研修会場となる佐賀県看護協会の近くにある保育園との委託契約で、受講者は研修の間、無料で利用することができます。もちろん、研修自体も無料で受講可能です。
ハローワークとの連携により、地域ごとのニーズにも対応しているそうですね。
森田 県内6カ所(佐賀・鳥栖・唐津・武雄・伊万里・鹿島)のハローワークで、「看護の仕事相談コーナー」を毎月1~2回開設しています。そこでは、その地域の事情に詳しく看護職の経験豊富な相談員が、親身になってお話を伺っています。同意が得られた方のハローワークの情報はナースセンターとも共有して、どの地域の方であってもスムーズに再就職できるように支援しています。2016年度はハローワークとの連携によって、求職中の看護職80人近くが、ハローワークに登録と同時にナースセンターへも登録しています。
横田 相談員一人ひとりが、とてもやりがいを感じて相談業務に取り組んでいます。「働く意志と能力のある潜在看護職を潜在のままにはしておけない!」という強い使命感を持ち、相談者に寄り添いながら再就職の手立てを一緒に考えてくれるのは、ナースセンター事業の担当役員として頼もしい限りだと思っています。
再就職に一歩踏み出せない看護職へ向けてメッセージをお願いします
森田 とにもかくにも、まずは届出をお願いします。再就職を希望する場合は、できるだけ希望条件に近い求人をご紹介したいと思いますので、お気軽にご連絡ください。「とりあえず見学してみたい」「別の施設についても知りたい」といった要望にも迅速に対応しています。
横田 不安でいっぱいの看護職が新しい一歩を踏み出すためのお手伝いをする。それがナースセンターの役割です。たとえブランクが長くなっていても、何も問題はありません。まずはナースセンターへの相談から、あなたの未来が開けるはずです。

佐賀県ナースセンター
〒849-0201 佐賀県佐賀市久保田町大字徳万1997-1
TEL:0952-51-3511
http://www.saga-nurse.org/kango_center.html
●センターの主な事業内容
・ナースバンク事業:看護職員無料職業紹介事業、ハローワーク移動相談・連携
・未就業者再就業支援研修
・看護職員の求人・求職合同説明会
・訪問看護師養成講習会
・看護の日普及啓発事業:看護の日・看護週間事業、ふれあい看護体験、進路相談
●センターで今一番注力している事業
1.eナースセンターへの登録促進
・各市町村役所などへ「ナースセンターのご案内」を配置
・ハローワークとの連携:就業状況などの情報交換
・求職登録と求職票登録の推進
2.復職支援強化事業
・施設訪問:県内の200床以下の病院を訪問し、ナースセンターの事業説明と求人施設登録を依頼。求人求職に関しても情報交換を行い、マッチングにつなげる。
・届出制度活用:届出者に往復はがきで就業状況、復職の意志、復職支援研修参加への希望などを確認し、希望に応じて研修や就業相談を行っている。
●今後行いたい取り組み
・広く潜在看護師にも届出制度を周知できるように、佐賀県内の各地域に就業相談や再就業に向けた研修の案内をしたいと考えている(例:公共施設などへの資料配置や、看護の日・看護週間の行事利用など)。
・各施設との情報交換で得た平成29年度のデータを、今後の就業相談に活用したいと考えている。
・プラチナナースへの就業支援を充実させる。
●離職者へのメッセージ
看護職が活躍できる場は様々で、働き方もいろいろあります。ナースセンターは、離職中の多くの看護職の方々と個別に相談に応じ、つながりを持ち続けながら、復職の応援をしていきたいと思います。
●その他のアピールポイント
佐賀県ナースセンターは、県内5地域6カ所のハローワークで定期的に就業相談を行っています。ハローワークには、ナースセンターが行っている再就業支援の研修のご案内も置いてあります。ナースセンターに登録された方には必ず連絡を取り、希望に沿った求人の案内に努めています。看護職再就業支援研修会は年に2回実施していますが、受講・託児ともに無料となっているので、子育て中の方にも参加していただけます。


