看護職が仕事と生活を両立させて生き生きと働くために、鳥取県ナースセンターでは就職相談や研修事業はもちろん、求人施設を訪問して看護職が働きやすい環境を整えるためのアドバイスも積極的に行っています。その取り組みの内容と業務にかける思いについて、鳥取県ナースセンター長の宮本芳江さんと、看護職員就業支援コーディネーターの安住朋代さんにお話を伺いました。

意外なことがきっかけとなって、求人施設の訪問がスタートしたそうですね。

鳥取県ナースセンター長の宮本芳江さんは「じっくりと自分の看護を実践できる訪問看護の魅力を1人でも多くの方に知ってほしい」と話す

宮本 県内の求人施設を訪問して、その実情を把握したいという思いはずっとあったのですが、マンパワーの問題もあってなかなか実現できないでいました。2017年度から本格的に訪問をスタートさせたのは、同時期に2人の相談者が当センターへ駆け込んできたことがきっかけでした。この2人は同じ施設に勤めていたのですが、別々に来所したにもかかわらず、「労働環境が厳しすぎる。次に決まった方もすぐに辞めてしまうと思います」という同じ内容の話をしました。「これは施設が大変なことになっているに違いない」と判断し、すぐに訪問することを決めました。

安住 その施設を訪れ、看護管理者や人事担当者に話を聞いてみると、とにかく夜勤従事者や管理者クラスの人材が不足していて困っているとのこと。同時に、夜勤手当や勤務時間の調整など、看護職が仕事を続けるための配慮が不十分であることも判明したのです。そこで、他施設の事例などを紹介しながら、「求職者から選ばれる施設になるためには、こんな工夫が必要ですよ」というアドバイスをさせていただいたところ、熱心にメモを取りながら聞いてくださいました。看護管理者も「そのような要望は現場のスタッフからも出ていたけれど、なかなか上に切り出せませんでした」と胸の内を吐露してくれ、図らずも本音で話し合う機会になりました。
 施設によっては看護部の発信力が弱く、その声がトップ層まで届かない場合もあるようですが、ナースセンターという第三者が間に入ることでスムーズな意見交換が可能になることもあります。的確なマッチングのための情報収集としてはもちろん、看護職によりよい環境で長く働き続けてもらうためにも、施設訪問に力を入れていきたいと考えています。これまで5病院を訪問しましたが、今後は介護施設も対象にする予定です。

来所する看護職からはどのような相談が寄せられていますか。

「看護職によりよい環境で長く働き続けてもらうために施設訪問に力を入れていきたい」と話す看護職員就業支援コーディネーターの安住朋代さん

安住 相談は基本的に予約制ですが、先に紹介したような駆け込みの相談も少なくありません。「今の病院が合わなくてつらい」「どうして自分は看護師になったのだろう」と切羽詰まった心境で訪れる方も、リラックスした雰囲気の中でお話しするだけで落ち着きを取り戻し、「もう少し頑張ってみます」と明るい表情で帰っていくこともあります。
 もっと具体的に転職や再就職を考えている方でしたら、条件を詳しく伺いマッチングを進めながら、研修をお勧めすることも多いですね。特に出産を機に退職して育児に専念してきた方は10年以上のブランクがあることも多く、技術面の不安感が大きい場合には、積極的に研修を受講してもらっています。

宮本 研修には、看護職として働くために必須の知識を習得できる講義・演習からなる「再就業支援研修会」と、シミュレーターを用いて実技を復習できる「再就業支援技術研修会」があります。未就業の方だけでなく、就業後1年未満の看護職も受講できます。県の東部・西部で同じ内容のプログラムを実施していますので、日程やアクセスのよい方を選んで気軽に参加していただきたいと思います。
 「再就業支援研修会」では、フィジカルアセスメント、急変時の看護、認知症を中心とした高齢者の看護、口腔ケア、摂食・嚥下障害患者の看護などの知識と技術が5日間で学べるようになっています。また、訪問看護についても基礎的なことが学べる講義を1コマ設けて、さらに興味のある方を訪問看護支援センターの研修へとつなぐことも見込んでいます。訪問看護を看護学校で学んでいない世代にとっては「訪問看護って何?」というくらい未知の世界でもありますから、「どんな意義があり、そこで看護職が何をしているのかを知って興味深かった」と大変好評でした。患者さんと1対1の環境で、じっくりと自分の看護を実践できるという訪問看護の魅力を、1人でも多くの方に知ってほしいですね。

安住 研修の最終日には、「交流カフェ」も開催しています。これまでの交流会は皆さんとても緊張して、なかなか会話が弾まなかったので、2017年度からはお茶とお菓子を用意したほか、プロによるハンドマッサージで参加者の体を癒してもらい、リラックスした雰囲気を演出することにしました。その甲斐あって、とても和やかな空気の中、20~50歳代の幅広い年齢層の方々が不安や悩みを打ち明け合う場面も見られました。参加者の中にはお子さん連れの方もいましたが、お母さんが抱っこしたままでは大変ですから、当センターの職員がキッズコーナーで一緒に遊んだり、抱っこしてあやしたりとお手伝いをしました。

宮本 もう1つの「再就業支援技術研修会」は、それぞれ1日の「採血・注射コース」と「リハビリコース」の2本立てになっています。
 採血や注射は再就職にあたって不安を感じる手技の筆頭ですから、参加者はいつも多いですね。リハビリコースは意外にもニーズが多いことが分かってスタートしました。病院では看護とリハビリは別ですが、訪問看護では両方を1人で行わなくてはならず、また介護施設でも看護師がリハビリを知らないと介護士と連携が取れません。研修のテーマは「体に優しい」で、理学療法士を講師に招いてスムーズな体位変換の方法など看護職の職業病ともいえる腰痛の問題を解消するための技術を学びます。特に介護施設に勤める看護職は腰痛や体力の限界を理由に退職する場合が少なくありませんから、離職防止にも一役買っている研修だと感じています。専用のシートを用いてベッドから車椅子へ移乗させる方法など、病院に勤めているとなかなか知ることのできない情報に触れることができて、私たちも新鮮な思いでした。

ナースセンターまで来所するのが難しい方へは、どのような配慮をしていますか。

安住 県内3カ所のハローワーク(鳥取・倉吉・米子)へ当センターの職員が赴き、それぞれ月に1~2回、各地の看護職の相談に応じる移動就業相談会を実施しています。また、毎年5月ごろに県内東部・中部・西部で実施される看護フェアでも相談会を開催しています。
 支援に時間を要する場合には、ハローワークの担当者と情報交換しながら、電話相談も併用して継続的に支援していきます。ハローワークは圧倒的な知名度を持っていますが、看護職の相談を専門的に行っているナースセンターに相談者を紹介してもらうことも少なくありません。

宮本 地域全体で看護職を増やしていくという意味では、「看護職員就職・進学ガイダンス」も重視しています。これは、県や看護学校にご協力いただきながら、学生やブランクのある方、I・Uターン就職を考えている方に対して情報提供を行うイベントです。県内の学校や病院について知ってもらうことはもちろん、県の担当者に奨学金の相談もできることが特徴です。学生であれば保護者と一緒に、借入れの条件から返済方法まで具体的な話をすることができます。平成30年は鳥取と米子の2カ所で3月に開催します。
 実は、鳥取県は看護学生への奨学金の貸付高が全国で2番目と、人口が最も少ない県でありながら東京都の次に多いのです。県を挙げて経済面でもサポートし、どんどん看護職を育成していきたいという意欲の現れですから、ぜひ多くの方に活用してほしいですね。

看護職の皆さんへメッセージをお願いします。

安住 再就業を急ぐあまり、自分に合わない職場を選んでしまっては本末転倒です。ナースセンターで自分の大切にしたい条件をしっかりと確認してから、必ず施設見学へ行ってほしいと思います。看護管理者の話を聞き、施設の雰囲気を感じて、本当に自分が長く働ける場所かを確認することが大切です。そうして再就職していった方が明るい顔で活躍しているのを見ることが、私たちにとって大きな喜びです。

宮本 看護職にとってケアの知識や技術はもちろん大切ですが、それと同等、あるいはそれ以上に大切なのが人間性です。それは日常的なケアをするとき、救急で対応するとき、患者さんを看取るときなど、すべての場面で求められます。どんな職場でも、患者さんとコミュニケーションを取り、その方の尊厳を大切にしながらケアに当たることは変わりません。ナースセンターではそうした「看護の軸」をお伝えしつつ、これからも鳥取県の看護職を支えていきたいと思います。

鳥取県ナースセンター

〒680-0901 鳥取県鳥取市江津318-1
TEL:0857-25-1222
   0800-222-1232(相談専用フリーコール)
https://tori-e-nurse.jp/

●センターの主な事業内容
1.ナースバンク事業
・再就業相談
・無料職業相談
・「とどけるん」の周知、就業支援
・関係機関との連絡調整
2.看護職員再就業支援研修事業
・再就業支援研修会
・再就業支援技術研修会
3.県内就業促進事業
・「看護職員就職・進学ガイダンス」の実施
・県内就業施設紹介ガイドブックの作成・配布

●センターで今一番注力している事業
・求人施設訪問:求人施設開拓、求人施設への訪問、情報収集、離職防止
・就業先として選ばれるための条件などの提案
・移動就業相談会(県内3カ所のハローワークと看護フェア、福祉就職フェア)
・就職・進学ガイダンスの実施

●今後行いたい取り組み
・「とどけるん」で届出済みプラチナナースへの再就業支援(交流カフェなど)
・特に看護管理経験者のキャリアを生かす福祉施設の求人開拓(施設訪問)
・福祉施設の看護の質の向上を図るための研修会

●離職者へのメッセージ
 看護職の資格を生かし、生活と両立させながらいきいきと働きたいというあなたの思いを大切にし、関わり、支え、共に歩むことができれば、私たちは幸せです。

●その他のアピールポイント
 癒しの空間を作れるよう職員一同心がけています。また、相談者一人ひとりを大切に看護の心で寄り添い、笑顔を取り戻してもらうことにやりがいを感じています。

鳥取県内看護職員就業施設紹介ガイドブック

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